白石良美との対話

<ひとつ、お伺いしたいことがあります>

 SNSに一つメッセージが入る。日本国憲法からのものだ。

<どうされましたか?>

 彼女は言う。

<春子様の楽曲にケチをつける輩がいて>

<そいつが言うには、春子様にはゴーストライターがいると言うんです>

 私は言葉を返す。

<へえ。そういう話があるんだ?>

<知らないんですか。記者の癖に>

<言っちゃいけないことってのが仕事にはあるんですよね>

<あなたの知ることの全てを今ここで告白なさい。神は全てを見通しておられます>

<ここは懺悔室か?>

<少なくとも私にとって春子様とは神です>

<そして私は春子様を祀る信者にして司祭>

<しかし、僕にとっては宮川春子よりコンプライアンスの方が大事なんだな>

<異教徒め。じきに裁きの日が来るぞ>

<じゃ僕は取材に行くから>

<ここは異教徒が居るべき場所ではない>

 彼女との会話はそこで一度途切れた。 ……私と彼女との関係性を他人に説明する時にどう言い表せばいいのだろう。私自身がインターネットに不慣れなこともあって、その語彙を持てないままでいる。友人にしては敵対的だし、取材対象かと言われるとそれも怪しい。何故私は彼女と、日本国憲法とやり取りを続けているのだろう……? 理由は分からない。いずれ分かるのやもしれないが、少なくとも今ではない。

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