白石良美との対話

ハンドルネーム・日本国憲法との会話は続いている。

<宮川春子が劇をやったの、知ってますか?>

 このようなメッセージが返ってくる。

<春子様を呼び捨てにするな、この下郎>

<知ってるに決まってるだろ。阿呆か>

 随分な言い回しだ。しかしいい加減私も、この相手の語調に慣れてきた。

私は言葉を返す。

<実際に鑑賞したことはありますか?>

 私のこのメッセージを見て、相手はしばらく考え込んでしまったようで……中々返事が来ない。

結局、十分ぐらいして相手はメッセージを送信してきた。

<ないよ>

<へえ。そんなに宮川春子が好きなのに、舞台は観なかったの?>

<地方勢を無視するような売り方をされても、こっちはどうしようもない>

<配信とか映像化があればいいけど、そういうのもなかった>

<だから私は演劇が嫌い。私の知らない春子様を、そいつらが自分のものみたいにしているのが許せない>

 私は答える。

<別に、宮川春子は誰のものでもないんじゃないのかな>

<そうかもしれません>

 意外なほど素直に、相手はそう答えて見せる。しかし、次の瞬間には

<でも、他の凡俗の馬の骨が言う春子様に対する感情なんて、みんな馬鹿馬鹿しくて見てられない>

<だから結局、春子様に感情を向けることが許されているのは、理解ができるのは、私だけなんです>

<私だけが、宮川春子を理解している>

<ところで>

<どうした、馬の骨>

<宮川春子の母親ってどんな人だと思う?>

<は?>

<春子様が人の子とか言うの、解釈違いなんでやめてもらえますか?>

 冗談のような言葉だと思った。けれども相手はきっと真剣なのだろう。

私は言った。

<そりゃ大変なことだなあ>

 私のその発言から、日本国憲法からの反応は一度途絶える。

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