夢中2

「また派手にやったわね」

 宮川春子の家に言って早々、私は呆れながらそう言い放つ。夫婦の家なのに、生活感が全くない。夫の芹沢嗣治はよくホテルに缶詰にされて小説を書くので家には殆ど出入りしないと言う。二人が通販で購入した物品が、箱も開けられずに大量に積み重なっている。芹沢が自身の稼業のために注文した資料や、宮川春子が思いつきで購入した物。物。物。

その雑多な空間の中に一人の少女が居る。薄手のネグリジェを着たその少女こそが、今や世界の~という前置詞がつく、宮川春子である。

「世界の宮川春子がそんな扇情的なカッコして、どうすんのよ」

 彼女はニヤリと笑う。無意識に、練習したわけでもないその笑みがやたらと自然で、エロティックで――私はほんの少しだけ、ドキっとする。

「そんなにえっちな格好、してます?」

「してるわね」

あはは! 彼女は笑う。

「私――ナオミちゃんみたいになれますかね」

「誰よ、それ」

「谷崎ジュンイチローです。クレハちゃん、知らないんですか」

「あんたね。あの旦那の悪い癖がうつってるわよ。自分のことをディレッタントだかスノッブだかと言い始める、そういうやつ」

「それは……夫婦ですからね」

「それより、こっち来て下さいよ!」

 彼女はそう言って、私を寝室に招く。

そこに広がる光景を見て、私は驚く。

「ねえ、ハルコ――これは一体、何よ?」

「何って、服ですよ?」

 そこにあったのは――大量の制服。女子制服だった。

バリエーションは様々。

ブレザーもセーラーもあり、有名校のものも混じっている。どうやって入手したのだろうか?

彼女は言った。

「ちょっと最近、制服買うのにハマちゃって」

「何よそれ。気色悪い」

「可愛いんです。色んな服買うとかより、こっちの方が趣味に合うんです」

「あんたね……もう、いい大人なんだから。良い買い物と悪い買い物の区別ぐらいつけるようにしなさいよね」

 一つ一つ閉まっていくわよ。私が言うと、彼女は

「はい!」

 と答えて、私の指示通りに作業を開始する。

私はそれを横目に見ながら、こうも思った。……天下の美少女。ハルコ・ミヤカワも、歳を取ったんだな、と。

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