目が覚めて

「お客さん!」

 誰かがそう言っている。宮川春子の声ではない。大泉五月でもない。例の記者か? いや、違う。――そこまで考えて、私はハっとする。

「今どこですか!?」

「調布駅に着いたんです。でもお客さん、寝ちゃってたでしょ?」

「ああ、すいません!」

 私は財布からいくつかお札を取り出し、運転手に手渡す。

「これで足りますか?」

「はい。今からお釣りをお出ししますので」

「いや、いいです。いらないです!」

「本当ですか?」

 お客さん、気を付けて下さいよ。そう言って運転手はタクシーのドアを開く。

駅から家まではそう遠くない。眠っている間に幾らか酒が抜けたのか、新宿に居る時よりもずっとマトモに歩くことができる。

 家には、誰も居ない。部屋は暗く、冷たい。……私は化粧も落とさず、ベッドに横たえ、眠り始める。睡魔はすぐそこまで来ている。

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