14話 非常事態
祐太郎が入ってからも試合は一向にベルギーペースだった。
日本が攻める場面もどんどん減っていき、祐太郎ですら下がって守ってる姿が多く見られるように。
天皇杯や大学の試合では、いつも祐太郎が入れば試合の雰囲気はすぐ変わっていたのに……。
やっぱり世界は別格……ってことなの?
「あなたの彼氏、ずっと守ってるみたいだけど?」
水城さんはサングラスを弄りながらわたしのことを煽ってくる。
「うるさいですよ。祐太郎だって、決めたいと思って我慢してるんですから」
「我慢?」
「守って守って、我慢して、ワンプレーに全てを賭けるんです。祐太郎はいつもそうやって点を取って来ましたから」
そうよ。焦っても仕方ない。
祐太郎はいつだってほんのワンプレーで自分の道を切り開いて来た。
今だって、ずっとそのタイミングを虎視眈々と待っているはず。
「ふふっ……あなたとよく似てるわね」
「え?」
「あなただって祐太郎くんと出会うために、色んなことを我慢して、やっとここまで来たでしょ? 夫婦揃って似たモノ同士ってわけね」
「う、うるさいですっ」
でも、水城さんの言う通り。
わたしも祐太郎も、我慢強いからここまで来れた。
結果は後から付いてくる、だから今は継続して目の前にあることをやり続けるしかない。
そう思った矢先の出来事だった。
「……えっ!?」
☆☆
ただでさえベルギーに押し込まれていたのに、ここで非常事態が起きた。
金川先輩のポストプレーが乱れ、ベルギーの速攻を喰らった場面。
5人対3人という数的不利で、簡単に崩されてしまった日本だったが、チャン先輩の出足の速さが功を奏して、ペナルティエリア内で敵FWの伸びたドリブルをチャン先輩が手で止めた……と思われたのだが。
『ピーッッ!』
ホイッスルが鳴り響いたの同時に、審判の手には真っ赤なカードがあった。
そう——チャン先輩は決定機阻止を取られてしまったのだ。
無論、チャン先輩や金川先輩が審判に抗議をするが、それもチャン先輩は虚しく退場に。
お、おいおい、こっちはもう交代のカードを全て切ってるんだぞ?
交代のカードが5枚の試合だが、前半の負傷交代で1枚、後半の頭から俺を投入してまた1枚、さらに足の止まっていたボランチの選手とDF2人を変えて3枚使っており、合計は5枚。
つまり、日本はもうGKを入れることができない。
親善試合ということもあり、ペルコジーニョもこのリスクマネージメントはしていなかったようだ。
こうなった場合、フィールドプレイヤーの誰かがGKをやることになるのだが……ん?
抗議を終えてペルコジーニョと話していた金川先輩が、俺に近づいてくる。
「槇島……話がある」
「え?」
「ペルコジーニョが、お前にGKをやるようにって」
「は、はあ!?」
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