13話 絶望の中にあったもの


 オフサイドラインのスレスレで抜け出してボールを受けた俺だったが、背後から現れたベルギーの鉄壁・エレクによって簡単に追いつかれてしまう。


「なっ!」


 グニャアッという効果音が聞こえて来そうなほど、背骨に響き渡る衝撃。

 まるで大型トラックが背中にぶつかって来たような感覚。

 交通事故くらい激しく当てられ、背中から身体が吹っ飛びそうになってしまう。


 ヤバい、転ぶぞっ!


 そのまま前に転びそうになったことで、どんどん芝が目に近づいて来る。

 なんで、俺は……。


 俺にはまだ未熟な点が無数にあると分かっていた。

 ただ、この一瞬で全てを察した。


 どれだけ足が速くても、どれだけ卓越した才能があっても、このスポーツは。


「Modern soccer is physical supremacy. It's not sweet enough for a light player like you to win.(現代サッカーはフィジカル至上主義。お前みたいな軽い選手が勝てるほど甘くないんだよ)」


 背後から聞こえて来た英語の意味は良く分からないが、なんとなく理解する。

 圧倒的にフィジカルが足りない……そう言われたのだと。


 ……でも、ここで倒れるわけには……。


 ペルコジーニョが後半の頭からくれたこのチャンス。

 これを無碍にしたらもう二度とチャンスは貰えないかもしれない。


 俺は倒れそうになる身体を左足でグッと堪えてそのまま前へ進もうとした……が。


「あれ……?」


 いつもならもっと前に行けるのに。

 どれだけ足を踏み込んでボールと一緒にゴールへ行こうとしても、身体が思うように前へ動かない。


 おかしい。動けっ。


 怪我をしたわけでもない。さっきのタックルの痛みだってほぼない。


 それなのに。なぜ……ゴールが遠く感じる?


 すると簡単に背後にいたエレクに抜かれ、俺の足元にあったボールは大きく蹴り出されてしまう。


「お、俺は倒れそうになっても前に動いていたはず……それなのに……」


 違う。俺が動いてなかったんじゃなくて、エレクが速すぎたのか。


 フィジカルの強い選手は単に身体が強いだけじゃない。

 その筋肉によって"速さ"も身につける。


 俺はこの身軽さがあるからこそ、柔軟な抜け出しやフィニッシュへの道筋を描けるが、それはただ軽いだけなのかもしれない。


「絶望感……しかないな」


 俺は守備に戻りながら呟く。

 でも……俺は誰よりも絶望して来た選手だ。

 今更、フィジカルが無いから何もできないと僻んでしまうほどヤワじゃねえ。


「考えるしかないだろ……槇島祐太郎オレ


 フィジカルが無くてもフィジカルモンスターに勝つ方法……考えるしかないだろ。


 それが俺に課せられたペルコジーニョのミッションなのだから

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