12話 ゴールの匂い
試合が始まると、プラン通りにワントップの金川先輩にボールが集まる。
身体が強い金川先輩はベルギーの屈強なディフェンスにも負けず、ポストプレーで攻撃を支える。
とまぁ、後半は比較的日本が押し込む展開が続いているのだが……。
お、俺の足元にボールが来ねぇ……!
俺は何度もリアクションをして、ボールを要求するも、無視されてしまう。
しかも金川先輩まで。
当たり前と言ったら当たり前だが、メディア受けでサプライズ選出された俺みたいな18歳が信用されているわけがない。
そりゃ、先輩たちの気持ちは分かるが、ボールが来ないとアピールしようにもできないだろ!
俺は金川先輩のポジションを常に確認しながら、一列低いポジションからゴールを見据える。
どうやったらボールを貰えるのか……。
考えろ……俺。
そもそも高東大の時はどうしてボールが回って来たんだ?
高東大の時だって絢音のためにかなり無茶して急に1軍に滑り込んだが、先輩たちはそんな俺にもボールを回してくれた。
それは阿崎がいたからか?
阿崎……ん?
「……いや……違うな」
考えれば考えるほど、俺は勘違いしていたことに気づく。
信頼してるからとか、そんな青春漫画みたいな理由じゃない。
サッカーはいつだってロジックの中でプレーが続く。
俺はボールが貰えたらすぐにヒエラルキーをひっくり返せると勘違いしていた。
「違う……ここまで来て何勘違いしてんだ俺」
先輩たちがボールを回さないのは、シンプルに俺からゴールの匂いがしないからだ。
ボールを貰ってからアピールしようとしてる俺なんかにボールが来るわけない。
ボールが来る前にゴールの匂いをさせるために必要なこと……それは、さっきの勘違いよりもシンプルな理由だ。
俺はポストプレーでボールを受けた金川先輩を真横から追い抜く。
「先輩、ボランチにボール落とせっ!」
「っ! 槇島っ!?」
金川先輩は驚きながらも、俺ではなく上がって来たボランチの先輩にボールを預けた。
それでいい、あとは。
俺は敵陣の最終ラインであるオフサイドラインを横になぞるようにしてランニングしながら右手を挙げた。
ボランチ! ボールを寄越せっ! 俺に、ボールを!
俺はボランチからボールが来ることを信じて抜け出す。
そして俺のイメージがボランチに伝わったのか、裏に抜け出した俺の前にピンポイントでボランチからボールが届いた。
「来たァッ!!!」
自慢の抜け出しで完全に他を置き去りにした俺の目の前にはキーパーしかいない。
これが俺の作った得点の匂いだ!
「槇島っ!」
金川先輩の声が背後から聞こえて来る。
先輩、見てろよ俺の——。
「違うっ! 背後からっ!」
えっ……?
背中からグッと圧力を感じる。
「嘘……だろ」
完全にDFを置き去りにして抜け出したはずだった。
それなのに、一瞬で追いついたというのか……?
「いい抜け出しだったな。ボーイ」
これが、イングランドで戦うベルギーの鉄壁、エレク・ラザードっ。
まずい、あの金川先輩でも負けたフィジカル勝負じゃ敵わない……!
どうする。
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