80話 櫻崎さんは背中側
俺達と同じ制服を着ていることから、櫻崎さんは同じ高校に通う生徒だという認識はできたようだ。ただ、やや小柄な体格の櫻崎さんを同級生として判別するには判断材料が少なかった。
「つっ。」
櫻崎さんが宮前の気の強さに押され身構える。
俺を盾だと思っているのか、櫻崎さんは俺の後ろに隠れたまま動かない。
後ろを見ると、見知らぬ人に餌を出され、恐怖と物欲しさに困惑している子猫のようにプルプルと震えていた。
クラスでは誰とでも話をしている可憐なお嬢様も、案外人見知り気質なのかもしれない。
宮前は誰にでもグイグイいくから初対面の人には、気が強くて強引な人だと誤解されがちだ。まぁ、慣れればいい奴なんだが。
そう思いながら櫻崎さんの代わりに俺が口をはさんだ。
「彼女は俺達のクラスメイト。櫻崎絃葉さんだ。」
誤解がないよう同級生である事を強調する。
そいや、初めてフルネームで名前を呼んだ気がする。
「へぇ。この子が噂の....。」
宮前が物珍しそうな顔をして、俺の右側から恐る恐る顔を覗かせている櫻崎さんを舐め回すように一周した。
どうやら、櫻崎さんの存在は栄進清女学院でも有名らしい。流石、日本を代表する財閥の娘様だ。まぁ、勘当されているから元お嬢様が正しいのか?と言葉に詰まってしまうが....。
■■■■■
「初めまして。櫻崎さん!私、宮前和花奈。よろしくね」
そう言って、宮前は挨拶代わりに手を差し伸べる。
宮前が急に距離を詰めてきたせいで驚き櫻崎さんは、宮前の差し出された手を見たまま固まってしまった。
「櫻崎さん、俺からも和花奈をよろしく頼む!こう見えて良い奴だからな。」
「ちょ、こう見えてって何よ!私はずっと優しいでしょ!!外見も内面も最高に優しい女でしょっ!!」
気を効かせて雄大もフォローに回ったのだが、最初の余計な一言に不満そうに宮前が頬を膨らませている。
「本当に優しい人ってのは、自分で優しいなんて言わないと思うが....」
面白いのでそこに俺が追い打ちをかけてやった。
「西野までー。もぉー―――。」
宮前が不服そうな顔で唸った。
「クスクス。」
俺達のくだらない会話がお嬢様には受けたらしい。
「クスクス」
小さく笑う櫻崎さんの声の美しさに俺達3人の視線が集中した。
「クスクス、はっ。す、すみません...。皆さんのお話が面白くて、、つい....」
笑ってしまうなんて....とても、失礼な事を...。
「大丈夫だ。今の櫻崎さんの反応はとても自然なものだから。こいつら見て笑わないほうがどうかしている。」
「ちょっと、西野、さっきから私達の扱いひどくない?」
「そうだぞっ!!」
後ろで2人がヤイヤイ言っているが、それを無視して俺は櫻崎さんの目を見た。
「まぁ、あいつらも、悪いような奴じゃないからさ、仲良くしてくれると、幼馴染としても、嬉しい。」
俺が言うと、櫻崎さんはふわっと笑っていた。
「もちろんです。」
そう言って櫻崎さんは頷くと、今まで盾にしていた俺という壁を越えて前に出た。
「宮前さん!先ほどは、初対面にも関わらず、ぶしつけな態度をとってしまい、申し訳ございません。櫻崎絃葉と申します。どうぞ、よろしくお願いします。」
そう言って、櫻崎さんは、優雅に制服のスカートのすそを少し持ち上げ、挨拶をした。
その彼女の一つ一つの動作に、貴族のたしなみを教え込まれた所作が垣間見れた。
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雄大と俺が前を歩く。
後ろでは、宮前と櫻崎さんが親睦を深め歩いていた。
というか、宮前が一方的に仲良くしに行っている感じだが....。
強引に櫻崎さんのパーソナルスペースに入ってきて距離を詰めだす宮前に困惑しつつも、女子同士、何かと話は合うのだろう。
「えー!!やっぱり!!流石だよ!!!」
「そ、そうでしょうか?」
「うん!!そうだっ!!連絡先も交換しとこ!!私達もう、友達だしっ!!」
「は、はい!」
「イヌスタとかやってる?」
「い、イヌスタグラムは、や、やってなくて、、、、ラインなら....。」
「おっけー!!」
サクラザキさんのアカウントをイヌスタで見かけた事はあるが、あくまでも仕事用。プライベートなイヌスタはやっていないのか。と、俺は勝手に考察をしていた。
「和花奈でいいよー。」
「わ、わかな、さん?」
「うん!私も櫻崎さんの事はいとちゃんって呼んでもいいかな?」
「は、はい。なんでも。」
「そっか。じゃぁ、これからよろしくお願いします」
連絡先を交換したりと宮前のペースに巻き込まれ、あたふたしていたが、今はとても楽しそうに見える。
なんだかんだ、宮前は対人関係強いよな。
■■■■■
4人で歩く通学路は少しばかりにぎやかになった。
「そーいえば、雄大。昨日、おばさんから聞いたんだけど、またテストの結果隠してたんでしょ?おばさん怒ってたけど?」
宮前が、終わったと思っていた話題を掘り返し、雄大が青ざめる。
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