77話 陰キャと馬鹿と女神様

「何が姫様だ。お前は彼女いるだろう。この浮気野郎。」

「浮気じゃないわっ!櫻崎さんは、俺達男子の信仰神、女神様なんだぞっ!」

どっから、その設定が出てきた....。

お前、実は俺より想像力豊かだろ?


クスクス。

そんな俺達の馬鹿な掛け合いに姫様の髪が揺れる。


「お二人は仲がよろしいのですね。」

「「全く!」」


俺達の息ぴったりな全否定に櫻崎さんはさらに肩を揺らして笑っていた。

■■■■■

俺(陰キャ)、雄大(馬鹿)、櫻崎さん(女神)。俺達は、変なトリオで通学路を歩いていた。

メンバーに女子がいるだけで、こんなに華やかな気分になるとは....と少し櫻崎さんの存在を尊敬した。



「あの、自分で言うのもなんですが、私も西野君の次に成績が良いので、岡野君の勉強指導に役に立てると思います。」

ふむっ!となぜか姫様まで食い気味だ。


「マジで、い、いいんすか?」

今の雄大は藁にも縋る思いなのだろう。

道端で女神を拝みかねない。

俺は、あえて口をはさむ。

「櫻崎さんは、色々、いいのか?」

目くばせしたつもりだったが、何の疑いもなくコクリと頷いた。

「はい。2人で教えれば西野君の、1人の負担も減るでしょうし、これは私がやりたいだけなのです。問題ありません。」

『それに、夏休み、勉強漬けの毎日がどれだけ苦しいものなのか、私には分かりますから。』

そう俺にだけ聞こえる声でそう付け加えた。

もしかしたら、過去の自分と同じ思いをさせないために必死になっているのかもしれない。

そう思うと彼女の積極的な行動も理解できた。

『てか、家の方向、真逆じゃないか?』

俺は櫻崎さんの家を知っている。

だから、偶然、俺達の後ろを歩いてきたという彼女の言葉に疑問を持った。

『うっ。それは、、その..ですね..』

俺の問に櫻崎さんは目をそらし押し黙る。

(に、西野君に朝、会いたくてマンションの前の交差点でウロウロ様子を伺っていたなど、口が裂けても言えないです..。)



『まぁ、いい。』

言いにくそうだったので、これ以上の詮索は止めておいた。

「じゃぁ、後は勉強場所をどうするか、だな。」

流石にこの3人で教室や図書館で勉強会となると悪目立ちしそうだ。

何を噂されるか分かったもんじゃない。




「おっ?その反応、つまりー?」

俺の反応に雄大がニンマリと笑う。

そのニヨニヨした顔、腹が立つな。

「櫻崎さんに全てを押し付けて逃げるのは違うからな。今回は仕方なくだ。」

「うっひょー!やっぱ持つべきものは友だぜっ!」

ガシッと肩を組んできた。

「また調子に乗って……。やめろっ」

「クスクス」

櫻崎さんが可笑しそうに肩をゆらす。

「言っておくが、俺達が味方に付いたからと言って、そう簡単に成績が上がるわけじゃないからな?」

勉強は自分との戦いだ。

「分かってるってぇー」

お前が一番わかってなさそうだから言っているんだ。


「大丈夫だ!任せろー!!!!」

もう勝った気でいるのか雄大の耳に俺の忠告は入っていない。

「岡野くん。私達がするのはあくまでもサポートですので、努力をするのは岡野くんしだいです。分りましたか?」

「わっかりましたー!!」

最後に櫻崎さんが念を押すが、調子のいい声だけがバカデカく路上へ響いただけだった。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る