2章 

75話 面倒事

■■■■■


俺が櫻崎さんの秘密を知ってから、俺達が学校で親密な関係を演じ出す....事もなく、普通の日常が普通に過ぎていった。


「おはよっ奏汰!!会いたかった!!あのさっ!」

月曜日の朝、マンションから出てきた俺の顔を見るなり雄大が俺めがけて飛んできた。

「なんだ。朝から騒々しい。」

雄大のデカすぎる声に思わず耳をふさぎたくなる。

こちとら、仕事続きでろくに寝てないんだ。大声出すな。頭に響く。


「ごめん。悪い、、、、じゃ、なくて、奏汰!!マジで頼むっ!俺、大ピンチなんだっ!」

謝ったかと思うと、すぐに、両手を合わせ、懇願してくる雄大の様子からただならぬ予感しかしてこない。

また面倒ごとを拾ってきたんじゃないだろうな....。


「何かどうした?」

俺が聞くと、半泣きになりながら雄大が事のあらましを話始めた。


どうやら、この間の1学期中間テストの結果が散々だった事が親にバレたらしい。しかもテスト結果が返ってきてすでに1ヵ月。中間テストの結果はどうだった?と親が聞いた際には『まだ採点終わってないらしくて返ってきてない』だの、『部活から帰ってきたら渡すわ』だの色々ごねて引っ張りに引っ張って、挙句の果てには、赤点だらけの答案用紙を本棚の隙間に隠していた事で余計に親の怒りがマックスになり、次の1学期期末テストで5教科の赤点を回避し、学年50位までに入らなければ高2の夏休みは、塾の夏期講習とサッカー部の部活動以外、外出が禁じられてしまうらしい。つまり、夏休みのプライベートな遊びの予定は禁止ってやつだ。まぁ、前回のテスト期間中に地元プロサッカーの昇格試合の応援だの、彼女と誕生日デートだので出歩いていた結果なので同情の余地すらないと思うが。


「なるほど。で?」

俺はあえて、結論を出さず、雄大に突き返す。

「で?じゃなくてさー。この通りっ!頼むっ!!俺に勉強教えてください!!」

雄大はパンッと両手を合わせ深々と頭を下げた。

「はぁぁー。」

俺は思わず頭を抱えた。

「この通り!な?」

キザにウインクをしてくるあたり、調子に乗るのもたいがいにしろとキレたくなる。

「あのな、試験勉強って、人に教えてもらうとか言う以前に、自分で取り組んで結果を出すものだと思うけど?」

知ってる?お前が授業中どれだけ眠りこけてるか。

知ってる?クラスメイトが貴重な昼休みを割いてまで小テストの勉強とかをしている時に大声で馬鹿話をしていること。

あと、部活が忙しいって言って、勉強する時間が取れない事をサッカー部のせいにしてるけど、3年のサッカー部の先輩なんかエースストライカーやって、部長として部をまとめて忙しいはずなのに、学年成績上位者なんだろ?できないを言い訳にしてるだけだろ。あとは、お前より俺のほうが何倍も忙しいと思うけど?

これ、どう説明する?

最後の方は、半ば逆ギレに近いがこれでいいだろう。

「分かった!分かった!奏汰が言いたい事はもう、分かってる!俺が逃げずに勉強に立ち向かえばいいんだろ?できる事全てやって、それでも無理なら人に頼めっ!そう言いたいんだろ?」

なんだ、分かってるなら話は早い。頑張れ。

俺は、スタスタと雄大の前を通り過ぎ、高校へと急ぐ。

「奏汰ぁ。見放すなよー!!」

雄大が俺に泣きついてくる。

気持ち悪いな。

それでも、わんわんと泣き叫ぶ雄大。


「もう、俺の読解力だけじゃ間に合わないんだよっ!50位だぞっ!50位!!学年50位以内!!!!!次は期末試験だから試験科目も増えるし、無理じゃんっ!!俺一人じゃできないんだよぉぉ!!!かなたぁー!!俺は夏休みを失いたくないぃぃぃぃ!!!!お願いだぁぁぁぁあぁぁ!!」

雄大が大声で泣き叫ぶもんだから、だんだん通行人の視線も痛くなってきた。


はぁ。

仕方ない。今日は相手にしてやろう。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る