74話 梅雨明けの幕開け

「櫻崎さん、いや、サクラザキ先生」

「...」

これから何を言われるのか察しているのか、櫻崎さんは何も言わず、しゅんとしている。

だから、俺は怯まずに続けた。

「ここで無理して倒れたりしたら、もっと仕事に穴を開ける事につながるかもしれない。そうだろ?」

「……」


「これは、俺の問題で余り口には出してこなかったが、俺はサクラザキさんと一緒に仕事をできる事が率直に嬉しい。サクラザキ先生の描くイラストも好きだし、なにより、仕事に対する熱量に尊敬する。だからこのチャンスをものにしたい。もっと、俺達の作品を色々な人に届けたい。だから、同じ仕事仲間として伝える。今日はゆっくり休む。仕事の事は一切考えない。いいな?」

俺の話に嬉しそうな顔をしていたが、最後の一言でしゅんと猫耳が垂れ下がる。

「はぃ。」

しょんぼりとした後ろ姿で立ち上がると、櫻崎さんは液タブとパソコンの電源を落としに行った。


「よし。今日はゆっくり休むといい。」

「....。」

少し機嫌を損ねてしまったか...。

だが、これでいい。

無理して倒れられたら『サクラザキ、過労』で大炎上だ。

それだけは回避する必要がある。


■■■■■


「じゃあ、俺はそろそろ帰る。長居して悪かった。」

俺が居たら気が休まらないだろうと、そそくさと立ち上がる。

「いえ。こちらこそ急に引き留めてしまい申し訳なかったです。」

授業に関する資料を届けてくださりありがとうございました。

それに、私の話まで聞いて下さり本当に感謝してもしきれないです。

「や、貴重な時間だったと思うし、俺も櫻崎さんが打ち明けてくれてスッキリしたし、気にしないでいい。」

「そう、ですか?」

「ああ。」

俺は靴を履き、ドアノブに手をかけた。

「そんじゃ、またな。無理せず休めよ。」

そう言い残して俺は、櫻崎さんのアパートを後にした。


外を出ると、街頭がチカチカと光っていた。



今日は濃い一日だった。

この世は広いようで狭い。

俺と違って彼女は強い。

あの人に抗おうとしたんだもんな。

俺は......。

ふぅ。

思わず溜息が漏れる。

そして、俺は自分の影を背に閑散とした住宅街を歩いて帰った。




■■■■■



この日、サクラザキ先生のTwitterに『今日は仕事がお休みの日です(´・ω・)シュン』のコメントと一緒に電源の入っていない液タブとパソコンモニターが映った写真が投稿され、『#サクラザキ先生休養日』が瞬く間にトレンド入りしたのは、また、別のお話。



次の日、櫻崎さんは元気に学校に登校して来た。

「おはようございます。西野君。」

「ああ。おはよう。櫻崎さん。風邪で休んでたって聞いたけど...調子はどうだ?」

「ええ。おかげ様ですっかり良くなりました。」

「そうか。」

「また、今日からよろしくお願いしますね。」

「ああ。こちらこそよろしく。」

「はい。」


この日、中国・四国、関東が梅雨明けしたと全国ニュースが流れたのだった。


■■■■■

1章完



いつも★や応援コメントありがとうございます。大変活力になっております。嬉しいです。

さて、無事?1章を終える事ができました。ここまでお読みくださりありがとうございました!!

次回から2章目突入です。まだタイトル回収できていないのでそのあたりの展開も進めていきたいですね。ここからは少々間隔を開けての投稿になるかと思いますがご愛読のほどどうぞよろしくお願い致します。

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