72話 サクラザキの誕生秘話④
「....。そこからは、色々ありまして、、」
櫻崎さんは言葉を濁した。見ているこっちが痛々しい気持ちになるくらい、綺麗な顔は青白くゆがんでいた。
恐らく、言葉にするのも憚られるようななにかが彼女の身に起きていたのだろうと俺は思った。
少しだけ、割愛させてください。
そう無理に微笑む。
こんな顔をするまで彼女を追いこんであの人は何がしたかったのか。
普通に、普通の家庭で生まれ育ったならば、彼女がこんな顔をしなかったのではないか、、、そう思うと自分の事みたいに腹立たしさを感じた。
櫻崎さんはゆっくりと息を整えてから言葉を紡ぐ。
「『そんなゴミみたいな活動を続けるのならば、家を出ていけっ!二度と櫻崎の敷居を跨ぐなっ!この櫻崎の恥さらしがっ!!』と怒鳴るおじい様から私は逃げるように屋敷を出ました。それが、中3の秋休みの思い出です。」
思い出すだけで心に激痛が走るのだろう。彼女の綺麗な顔が苦痛にゆがむ。
「引っ越しとかはどうしたんだ?」
いくらお金持ちのお嬢様とは言え、中学3年の少女、未成年である。できる事は限られただろう。
「幸い、保証人は私と一番仲の良かったお世話係の方が引き受けてくださいました。その方は今、地方で幸せな生活をしておられます。」
恐らく、櫻崎さんを援助したと言う罪で世話係を首になったか、自ら辞職したか……。
「それと引っ越し資金は、直近でお引き受けしたVtuber様のパーツ分け等の大型収益のお仕事があったので、なんとか...。」
Vtuberのパーツ分けイラスト...まぁ、最低ラインでも50万くらいはいくって言うからな。
そう思うと、中学生ながらサクラザキさんのイラストの実力は恐ろしいものがある。
「はい。ただ、それでも、パソコンや機材を一式買いなおしたり、生活費、授業料を自分で賄うとなるとかなりカツカツになるので...」
「それで、こんなオンボロ....。」
危うくオンボロアパートと言いそうになった。少し気づくのが遅かったが。
「はい。あの頃の私に払える家賃ではここがギリギリで...。」
「高校入学当初は、死に物狂いで仕事を引き受けて生活費を稼ぐ事に必死でした。」
徹夜で仕事をこなし、即日納期とかで利益を上げていたという。
凄い忍耐力と集中力。
「すごいな。」
「恥ずかしい話です。私も必死でしたので...。」
年が明けて、今年の2月、仕事や生活面でも安定してきたのでそろそろ大きなお仕事を引き受けたいなと思い始めた時に、月島出版社さんから、虹乃先生の担当イラストレーターにならないか?と声がかかりました。
初めは耳を疑いました。
将来、虹乃先生のイラストを描きたい!と思ってはいましたが、正直、こんなに早く夢が叶うとは。
とても嬉しかったですし、迷惑をかけないように頑張ろうとも思いました。
なので、初めてのラフ案提出もとても力を入れましたし、長らく思いをはせていたからこそ、実際に虹乃先生にお会いする、となった時、とても緊張してしまいました。
「これが、私、サクラザキというイラストレーターが誕生するまでの全容です。」
そう言って話を締めくくった。
へらへらと空元気で笑う彼女が痛々しく見える。
どうですか?私に失望したのではないですか?
「全く。」
櫻崎さんの問いを俺は即座に否定した。
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