69話 サクラザキの誕生秘話①
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ある長雨続く5月の中頃。
今年は早めの梅雨がきたと、人々が嘆いている時期に、私、櫻崎絃葉は誕生しました。
生まれた先は、親族が経営している櫻崎医科大学付属病院の分娩室。
私の前世が何をそうさせたのか知りませんが、私の親戚は皆、お金持ち貴族の集まりでした。
櫻崎グループと言えば、日本を代表する資産家であり、経営企業グループの事です。
芸能界のスポンサー、物流の貿易路、スポーツ選手の育成、病院、小中高大の教育機関の運営、世界の日本旅館の総代。日本のありとあらゆる分野に櫻崎グループが関与している。そんな財閥グループの孫娘として生まれたのが、私、櫻崎絃葉でした。
一件、羨ましい家庭に生まれたように見えますが、何をするにも監視され、人の目がついてくる、そんな窮屈な日々。
櫻崎会長の孫娘。これが私の肩書です。
物心がついた頃には、もう、私が自由に遊ばせてもらえる時間はほとんどありませんでした。
「お嬢様、お琴のお稽古の時間でございます。」
時間になれば、世話係が私の部屋に入ってくる。
「分かりました。今、お支度を整えますね。」
そして、作り笑顔と一緒に私はお稽古へ向かう。
ピアノ、お琴、三味線、茶道、華道、習字、社交ダンス、礼儀作法教室、家庭教師。
一流のグループの娘として、私は様々な教育を受けさせられました。
お稽古が終われば、そのお稽古で出た課題をこなすだけで一日が終わります。お稽古をさぼれば、あとからおじい様の叱責が飛びます。それが怖くて、恐怖から逃れるようにお稽古を頑張っていました。
唯一楽しかった習い事は、月に一度の絵画教室くらいです。
学校がお休みの日、皆が遊んでいる時間、私には自由がなく、外を歩くたびに、櫻崎の看板を付けさせられました。
本当は、近所の子達と公園で砂場遊びがやりたかった。鬼ごっこやかくれんぼ、秘密基地でトランプとかを泥だらけになりながらやりたかった。一度だけごねた事がありましたが、
「貴方はあの子達とは生きている世界が違うの。我儘言わないでパーティー用のドレスを新調しに行くわよ。」強引に連れられ、あぁ、私は彼らと生きる世界が違うから我慢しないといけないんだと、虚ろな思いで感情に蓋をしました。
中学校までは、いわゆるお嬢様学校に通っていて、私は、私の家柄に媚びを売ってくる取り巻きたちと一緒に学生生活を送っていました。
「さすが、櫻崎さん。まだ学年1位だ!おめでとう。」
「お父さんも賢いもんね、そりゃ、櫻崎さんも優秀に決まってるよっ!」
「将来有望な人と一緒に勉強ができてとても光栄です。」
当然、気を使われる毎日。
恐らく、私より成績上位にならないようにと教えられていた家庭もあったのだと思います。たまに、粘着ないやがらせもありました。
何をやっても、必要以上に褒められ、悪目立ちする学校生活は全然楽しくありません。
けれど、もう、この生活、この環境に抗うという感情はとうの昔に消えていました。
『これが自分の生まれてきた世界で、これから生きていく世界なのだ』と毎日、自分に言い聞かせていました。
今考えると、なんであそこで我慢できていたのだろう?って思います。
櫻崎さんが昔を思い出し失笑する姿を見ても、どう声をかければいいのか分からず、黙って話の続きを待っていた。
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高校受験を来年に控えた中2の夏休み。
親族からは「よい高校へ行け」「高校選びは今後の人生を左右するから」と口酸っぱく言われ続けていた時期でもありました。
夏休みに入って3日目。何を思ったのか、夕食を終え自室に戻り、ようやく少ない自由時間を手にできた私は、スマホを手に取ると、成人するまで使用を禁止されていたSNSを始めました。
「SNS?インスタとか、Twitter?」
俺が尋ねると彼女は頷いた。
「はい。そのTwitterです。」
Twitterを始めようと思ったのに、別にきっかけはありませんでした。
なんとなく。です。
「櫻崎家の令嬢たるものが、そんなお粗末なSNSなど使うな。とSNSと呼ばれるもの全般の使用は、おじい様や使用人たちから、禁止されていました。それまでは、SNSに興味もなかったので、禁止されるほどSNSは危険なものなのだろうと思うだけで、苦痛は感じていませんでした。こまで見向きもしなかったTwitterに、この日、なぜか、私は引き込まれるように染まっていきました。」
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