68話 櫻崎さんの秘密
「一度、創造してしまった人物像をそう簡単に他人が改変するのは難しいですよ。だから、私は皆さんが思い描く人物になりきるのです。習うより、慣れろです。」
「けど、その生き方は疲れる。と思うけど?」
「そうですか?慣れてしまえば、意外と偽りの自分を演じるのには抵抗がなくなりますよ?」
「偽りの自分、ね」
「これは、西野君にも通じるものがあるのではないですか?」
「どうしてそう思う?」
「なんとなくです。」
クスリと櫻崎さんが笑った。
「西野君も、教室の隅に居ないで、会話に混ざってくればいいのにと、何度か思った事があります。」
「何度も言うけど、俺は面倒事が嫌いなんだ。それに、一人が好きだし、これでいい。」
「ふふふ。面倒事が嫌いならば、どうして、私の相談に乗ってくれようとしているのですか?」
流石にこの矛盾は指摘されるか。
「別に、単なる気まぐれだ。」
「気まぐれで、とても、とても面倒な事に首を突っ込もうとしているのですか?」
「まぁ、そういう事になるかな。」
「変わった人です。」
「まぁ、自覚はある。」
「優しさの魔物に寄生されてしまったんですね。」
「そんな魔物がいるのなら、死ぬまでに一度お目にかかりたいものだ。」
「ふふふ。」
話が変な方向に脱線してしまった。
このままだと、俺が隠している事が彼女にバレそうだ。
今は、俺の話をしたいんじゃない。
だから、俺はあえて、両手を上げ、降参の意を示す。
「あー。分かった、分かった。この話は、また今度にしよう。」
「ふふ。逃げるのですね。」
「別に、逃げるんじゃない。今は、それが本題じゃないからだ。」
「分かりました。そういう事にしておきます。」
彼女は小悪魔みたいに、意地悪く笑って見せた。
その笑顔は、あざといのに、透き通っていて、品があって...。これがギリシャ神話に描かれる邪天使の笑顔なのかと想像してしまった。
■■■■■
「じゃ、私の相談に乗ってくれますか?西野君。」
彼女は、ゆっくりと深呼吸をして、再度、俺に確認してきた。
そして、俺は、彼女の人生に関わる覚悟を決めるように、ゆっくりと頷いてみせた。
「ああ。もちろんだ。」
そう頷く俺に、彼女はほっとしたような顔をして、口角を少し持ち上げこう言った。
「私、櫻崎絃葉は実家を勘当されている身なのです。」
「か、ん、どう?」
俺が目を見開き驚く姿に櫻崎さんは慣れている様子だった。
もしかしたら、こんな反応をされた事が過去に何度もあったのかもしれない。
「では、少し長い話になりますが、私の生い立ちから、聞いてくれますか?」
そう言って、彼女はぽつり、ぽつりと語り始めた。
「これは、サクラザキという一人のイラストレーターが誕生するまでのお話です。」
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