67話 素の性格

俺の脅迫じみた言葉に、櫻崎さんは、一瞬、目を丸くして、それから、少しだけ、口を尖らせた。

「....今の表現、西野君の最善の励ましだと受け取りますが、なんだか、少し傷つく言い方ですね」

「そうか?」

気付けば、フードから頭を出し、むきになって彼女は言う。

「別に、私は人を恐れてなどないです。ただ、私個人の話に西野君や皆さんを巻き込むのは、非常識で、はた迷惑な話だろうと思って遠慮しただけです。」

「俺は、なんでも相談に乗ると言ったんだが?」

「なんでも、と言っても、たかが、クラスメイトであり仕事仲間です。相談するにしても、出来る事、出来ない事、許容範囲があるでしょう?」

「あいにく、俺は両極端な男だからな。0か1しか存在してないんだ。」

なんでもと言ったら、どんなくだらない相談でも聞くし、どんなに面倒な事件にも巻き込まれてやる。そういう意味だ。



「...。本当に、両極端な人ですね。」

何故か、呆れるような顔をされた。

「ああ。だろう?」

「そんなんじゃ、いくら命があっても、足りませんよ?」

これは皮肉のつもりなのだろう。

「大丈夫だ。小説家は人の命を吸収して生きていくものだから。」

「生気を吸うって事ですか?」

いやらしい言い方だと思います。

まだ拗ねているのか、俺の言い回しに言いがかりをつけてくる。

「いや、小説家は色々な人の人生感を吸収する事で、一回りも二回りも成長できる。人を知る行為は全て己の糧になる。って話だ。」

人の命を知るたびに、小説家として成長できるという事を伝えたかったのだが、よく分からないと言う顔をされた。


「....はぁ。西野君が、こんなに暑苦しい変わり者だとは知りませんでした。」

西野君が虹乃先生であると知った時は驚きましたけれど、学校では、教室の隅で一人で読書をしているイメージだったので。

「面倒な関わり合いが嫌いなだけだ。人間の生き方を観察するのは、人と和気あいあいと話さなくても、見ていれば分かる。」

実際、読書をするフリをしながら、教室で盛り上がっている話を盗み聞いたりしているしな。

読書をする陰キャ姿はカモフラージュな事が多い。

「なんだか、本当に嫌らしい生き方をしているんですね。」

さっきまで大泣きしていたのが嘘みたいに、彼女は俺に冷ややかな視線を投げてきた。


おそらく、彼女の素の性格、言葉遣いはこっちなのだろう。

俺は、これまでの彼女の態度から、櫻崎さんの人となりを見極め、会話を続ける。

「俺も、櫻崎さんが、こんなに泣き虫で、人の優しさを拒否し続ける人だとは思わなかったよ。」

「なっ。泣き虫は余計ですっ。」

学校でも、今まででも、西野君に泣き顔を見られたのは今日だけですから。

いつにもまして、顔が赤い。

「はいはい。」

どうやら彼女の中での泣き虫の定義は、泣いている姿を何度も目撃されている事となっているらしい。



「学校でも、そんな感じでいればいいのに...。」

今のノリの方が、話しかけやすいし、もっと良い友好関係を築きやすいんじゃないのか?


「無理ですよ。なぜか、私を異界の存在としてあがめてくる人が多いんですから。」


「自分はそんな人間じゃないって否定すれば?」

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