65話 櫻崎さんの部屋
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どうしてこうなったのか。
俺は、櫻崎さんに誘われ部屋へ入った。部屋はワンルーム仕様。床はフローリングの上に白のラグマットが敷かれてあり、女子力高めな清潔感が感じられる。見れば、ベッド、家具、パソコン、椅子、多くの家具が白基調に揃えられてあり、インテリアとして置かれている観葉植物が部屋に暖かさを与えていた。
「狭いですが、こちらどうぞ。」
そう言って彼女が小さなローテーブルの一角を勧めてくれた。
腰を下ろしたラグマットの上は猫の毛のように、ふかふかしていた。
最近は、驚く出来事が多い。
イギリスの詩人バイロンの「ドン・ジュアン」に出てきて普及したことわざで、事実は小説より複雑で波瀾に富むという意の「小説は奇なり」は、こういう事を言うのか、と身に染みて感じた。
「えっと、話す事が多いですね」
俺の向かいに座った櫻崎さんは困ったように眉を伏せて他人行儀に笑っている。
まだ何かを取り繕おうとしているらしい。
「じゃ、俺から一つ聞いてもいいか?」
俺は、ここ数日ずっと聞きたかった事を口にした。
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「櫻崎さん...、なにか俺に言いたい事があるんじゃないか?」
この状況でこの切り出し方はどうかと思ったが、
まぁ、いい。
俺から根掘り葉掘り聞きだすことはできる。けど、それじゃ、彼女の本音は聞けない気がした。
今なら2人きりだし、周りの目も気にならない。腹を割って話すには丁度いい機会だ。
「何か、困ってる事があるなら、俺で良ければ、相談にのる。」
まぁ、頼りになるかは分からないが、話を聞くくらいなら出来るし....。
社交辞令のような決まり文句を掛けるが、その言葉に俺の本心は半分くらいしか含んではない。
何故なら、多分、前みたいに、「なんでもないです。」、「大丈夫です。」で済まされるんだろうと思っていたから。
櫻崎さんは、昔の俺みたいに、誰にも迷惑をかけないように生きていたいみたいだから。
なのに、俺が尋ねると、彼女は顔を上げ、俺の顔を見た。
その色白で美しい顔は、全力で声にならない助けを求めていた。
その透き通った瞳には、静かな涙が流れていた。
「え、、?」
まさか泣いているとは思ってなかった。
「だ、大丈夫か?」
俺が聞くと、
「にし、の君....。」
俺の名前を呼び、堪えていた嗚咽を吐き出しながら、震えるように泣き始めた。
「うぅぅ...。」
「ちょ、ちょい。ど、どうした?!」
いきなり女子に泣かれると、調子が狂う。
「どこか痛いのか?」
ふるふる。
小さく、首を振った。
違うのか。
どうやら、体の不調とかではなさそうだ。
「大丈夫か?」
「ふぇ、ふぇっ...」
泣き声が漏れるだけで、返事はない。
何が天使様だ。
何がお嬢様だ。
何が、才色兼備で理想の優等生だ。
皆の目は腐ってるんじゃないのか?
俺の前で、泣きじゃくる彼女は、どう見ても、そんな完璧な人には見えない。
天使のような人外さなんてない。
お嬢様のようなお堅い性格じゃない。
優等生なんて完璧でもない。
彼女もまた、弱き人間の仲間なのである。と、俺は確信した。
はぁ...。
仕方がない。
俺は静かに彼女が泣き止むまで、息をひそめて静かに待った。
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