64話 姫の誘い
■■■■■
紺色に白のラインが入っサラサラ生地のソリッドサテンのパジャマにベージュのパーカーを羽織った人が玄関から顔を出す。
「っ?!」
「ふぇ?!」
俺達は声にならない声で互いを見つめ、驚きが熟すのを待った。
「えっと、、、、」
『どうして..こんなところに?』そう言いたい気持ちをこらえ、今の一瞬で本来の目的を忘れそうになり、慌てて茶色の封筒を彼女に渡した。
「そう、これ、藤原先生から頼まれてこれ、持ってきた」
「あ、ありがとうございます。」
その封筒を櫻崎さんは気まずそうに俺から受け取った。
きっと、あの中には授業プリントなどが入っていたんだろう。
詐欺だとか、誘拐犯だとか....。
変にビクついて損をした……というか、申し訳ない。
「体調、は、大丈夫か?」
顔を見た手前、聞かない訳にはいかない。
俺は、今日彼女が体調不良で欠席していたことを思い出し、体の具合を心配する。
「あっ、はい。熱も下がりましたし、全然平気ですっ」
「そうか。」
みたところ、おでこに冷えピタを貼っているが、高熱があり顔がほてっているという感じも見受けられない。
若干の鼻声を除いて、重症な風邪とかではなさそうだ。
恐らく、2,3日で全回復するのだろう。
それよりか、
なぜ、櫻崎さんが豪邸ではなくこんなオンボロアパートに住んでいるのか。こっちの話題に話を変えたくて仕方なかった。
けれど、俺の中の本能がそれは、聞いたらいけない事だと訴えている気がして喉元まで出かかった声をグッとこらえた。
『お前の家も大概だが、
『あそこは、あそこだ。行けば分かる。』
『だから、変に一般市民を巻き込めないんだ。』
『お前は、元、がつくだろ?』
『いーや、これは本当にお前にしかできない大仕事だ。お前は口が堅いし安心だからな。』
『おっと、これから目にする事は他言無用だからな?最悪、株が大暴落するかもしれん案件だから。』
藤原先生が意味深な事を言っていたが、絶対にこの事だ。
そりゃ、学校中でお嬢様と噂されている姫様がこんな小汚い場所に住んでいたなんて事が知れたら大問題だ。株価の暴落も頷ける。
玄関の仕様をみるに、独り暮らしをしているとみて間違いない。
俺が内心大混乱をしていたら、櫻崎さんの大きく息を吸う音がした。
「すー、ふー。」
櫻崎さんが胸に手をあて、瞳を閉じ深呼吸をしていた。
額に冷えピタが貼ってあるせいで、普段より櫻崎さんの顔が小さく見える。
けど、弱弱しい病に侵された顔ではなかった。
櫻崎家の長女、櫻崎絃葉として何かを決心し、見ているこっちの背筋が自然と伸びる顔立ちの整った凛々しい顔をしていた。
「西野君。ちょっと中で話しませんか?」
次に目を開いて俺を見た櫻崎さんの瞳は、とても芯のあるまっすぐな目をしていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます