63話 雑用係は天使と出会う
「お前に1つ頼み事をしたいんだ」
藤原先生が詫びれもせずに言った。
「そんな事だろうと思いました。嫌です。」
「まぁ、そう言わず。な?」
「今年の夏は忙しいので、一秒の時間も無駄にできないですから。」
「頼む!これはお前にしか頼めない事なんだ。」
「俺にしかって....また、雑用ですよね?」
「まぁ、まぁ、そう怒るなよ」
「怒っていません。呆れているだけです。」
「おー。先生傷つくぅ。はい、これ」
そう言って、俺に住所の書いた紙と分厚い茶封筒を渡してきた。
嫌だと言っているのに....。
はぁ。
溜息をつくと藤原先生がさらに小さい声で、俺にだけ聞こえる体勢で耳打ちしてきた。
『お前の家も大概だが、
『あそこ?』
『あそこは、あそこだ。行けば分かる。』
『行けばって....』
俺は、どこの誰かを聞いているんだが?
『だから、変に一般市民を巻き込めないんだ。』
『一般市民って……俺も一般人だと思うんですけど?』
『お前は、元、がつくだろ?』
パチンと片目で合図された。
『....』
『ってことでよろしく。本当は俺が行けばすむ話だが、これから職員会議でさ、そーなったら多分夜遅くなる。だから頼む。』
『はぁ。結局、雑用係じゃないですか。』
『いーや、これは本当にお前にしかできない大仕事だ。お前は口が堅いし安心だからな。』
『口が堅いというか....広める場所が無いだけ…』
『おっと、これから目にする事は他言無用だからな?最悪、株が大暴落するかもしれん案件だから。』
『大げさな。人を脅しておいてよく言う。』
『まぁ、頼んだ!』
じゃっ!うまくやれよっ!!そう言って藤原先生は出ていった。
はぁ。
俺が虹乃彼方じゃなく、一般人だったらとっくに藤原先生の所業を教育委員会に訴えてるんだけどな。
俺は仕方なく封筒をカバンに突っ込み、スマホで住所検索をして道案内に従った。
■■■■■
「ここ、だよ、な?」
“目的地に到着しました。以上で道案内を終了します。”という音声案内を聞き流しつつ、たどり着いた目的地に俺は、言葉を失っていた。
駅の西側、俺のマンションと真逆の方向に広がる古めかしい住宅街。近くにはシャッター商店街があり、野良猫やらが住み着いている。
その一角に、ツタのはびこるオンボロな3階建てのアパートがあった。
築年数で言えば40年はくだらないだろう。
藤原先生から預かった住所でたどり着いたはいいが、誰の家に向かっているのか、そもそもこの封筒の中身は何なのか知らされていない。もしこれが闇バイトの受け子だとしたらとんだ詐欺に引っかかってしまったと法廷で訴えてやる。
312号室
3階の角部屋か。
アパートのポストで部屋番号を確認し、目の前の赤い手すりの階段をゆっくりと上った。
ギシギシと音を立てるさびれた階段を上り、312号室と書かれたプレート扉のインターホンを鳴らした。
ほどなくして、ガザついた女性の声がスピーカーから流れた。
「....はい....。」
「あの、藤原先生の使いの者です。」
もし、詐欺グループ一味の根城だとしたら、本名を名乗るのはヤバいと思い、とっさに藤原先生の名前を出す。
「あっ....」
すると、その名前でピンときたのか、扉の向こうで人の動く気配がした。
少し身構えつつも、扉が開くのを待った。
カチャリ
小さな金属音と共に扉がゆっくりと開く。
「すみません。わざわざありがとうございます。」
そこに出てきたのは、、、なんと、櫻崎さんだった。
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