62話 頼み事
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「くっしゅっ!」
隣の席で華奢な背中が小さく跳ねた。
「櫻崎さん大丈夫?風邪?」
「季節の変わり目だから体調崩さないように気をつけないと....」
ずずっと鼻をすする櫻崎さんに取り巻き達が心配の言葉をかけた。
「大丈夫です。きっと、誰かが私の噂をしているのでしょう。」
そう笑っていた。
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次の日、櫻崎さんは風邪で欠席となった。
「えー、櫻崎は風邪で休みだ。最近、季節外れのインフルエンザなんかも流行ってるっていうからな、体調管理は気をつけろよー。」
担任教師はその一言以外、櫻崎さんに言及することはなかった。
一応、仕事仲間である。
初めて職場で出会った日に交換したきり一度も使っていなかった櫻崎さんのアイコンを押し、LINEでメッセージを送った。
“大丈夫そうか?”
すると、ほどなくして返信があった。
“ただの風邪でした。病院へ行って薬をもらってきたのでもう大丈夫です。忙しい時期に仕事に穴を開けてしまい申し訳ありません”
謝罪の文章が返ってきた。
別に謝らなくても...。
体調不良は誰にでもあることだ。それに、今のところスケジュールの問題はないと聞いている。
“気に病まなくていい。ゆっくり休め”
そう返信をしといた。
授業が終わり、放課後になった。
「かなたー!!!じゃぁなー!!!」
「ああ。」
雄大が速攻で部活棟へ消えていった。
あの馬鹿はサッカーボールを蹴っとけば一応、様になるんだよな。
俺もさっさと帰ろう、そして今日こそは雄大に馬鹿にされないよう、ちゃんと夕飯を食べてから執筆しよう。なんなら証拠写真でもSNSに載っけとくか。
と考えながら職員室前を通り過ぎると、ちょうど職員室から出てきた担任に声をかけられた。
「おー。西野。いいとこに...」
「藤原先生....」
「ちょっとこっちこい。」
スーツ姿の30代前半、細見の高身長、藤原先生がニヤリとほくそ笑み、隣の教室、面談室のプレートの前で手招きしてくる。
俺の執筆活動は金銭が発生している以上学校に内緒で活動するとはいかず、学園長と担任だけが、俺が虹乃彼方である事を知っている。
そして、この担任は俺の弱みを握ったと思っているのか、よく面倒ごとを押し付けてくる。
「...なんですか...?」
俺は、藤原先生に連れ込まれた面談室で不満の意を唱えた。
「そんなめんどくさそうな顔するな」
「先生は、面倒臭い仕事を持ってきた時以外、俺に話かけませんから。」
そう言い返すと、藤原先生が足を組みなおし面白そうに苦笑した。
「おー、おー。言うようになったねー。この野郎。俺も一応ファンなんだ。ファンサービスでもしてくれりゃいいのに。つれないねー」
「あいにく、人を雑用係と勘違いしている人にはそのようなファンサービスは持ち合わしておりません。」
「はっ。そりゃそうか。」
藤原先生はカラカラと楽しそうに笑った。
結局この人は、俺を弄びたいだけなんだろうな。
「で?」
俺は、忙しいと言わんばかりに話の先を聞き出す。
「あー、一つお前に頼みがあってな。」
そう言って話を切り出してきた。
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