60話 朝のお小言

■■■■■

「おはー。」

エレベーターでエントランスに付くと、ロビーの椅子にちゃっかり座る雄大を見つけた。

こちらに、ひらひらと手を振り笑顔を向けてくるので無視をする。

「ちょ、奏汰、待てよー。」

「あいにく、俺は、急いでいるんだ」

「いいじゃんかー。一緒に学校行こうぜ?幼馴染だろ?」

なぜ、ここで幼馴染が強調されなきゃならない。

「いくら幼馴染と言ったって、毎日、ここで待たれていると、気味が悪い。」

「えー。つれないなー。」

雄大が気色悪くくっついてくるのを無理やりにはがす。

「離せって。」

「はいはい。」


「てか、奏汰。また朝御飯、それだけ?」

雄大が、口にくわえたスティックパンを見て言う。

「朝御飯は別に、授業中、腹が鳴らないようにするためのものだし。これで、栄養はちゃんと取れてるからいいんだ」

俺は栄養補助食品と書かれたゼリー飲料を見せる。

「奏汰。いくら、高校生の独り暮らしって言ったって、堕落した食生活にも限度があるからな?」

「堕落した食生活?俺のどこが?」

「自覚なしかよ!」

「見ろ、雄大。これだって、機能性表示食品のワンランク上、健康補助食品だ。これ飲めば、栄養バランスは完璧だし。このスティックパンは野菜が入っている。このどこが堕落した食生活と言いたい?」

俺は、某会社のゼリー飲料と野菜ジュース入りと書いてあるスティックパンを雄大に見せた。

「あのなー。食事ってもんは、サプリとか経口栄養補助食で補えればいいって話じゃないんだよ。分かる?」

「いーや。分からん」

高校生の1日の摂取カロリーは 2200 kcal前後。

このゼリー飲料1つが 180 kcal。

スティックパン1袋が 800 kcal。

総カロリー 980 kcal。

これを2食分、食べれば 1960 kcal。

後は、適当にフライドポテトMサイズでも食べれば、丁度いいエネルギーが摂取出来る。

こんなにカロリー計算された食事をしている俺の何が悪いって言うんだ。



「はぁー。ダメだこりゃ。」

それなのに、雄大はおおげざに頭を抱えて溜息をついた。

「奏汰。」


「なんだ?」

「奏汰の昨日の昼飯なんだった?」

いきなりなんだ?

「昨日は、焼きそばパンとメロンパン。てか、昼、お前が屋上行きたいとかぬかすから、屋上で菓子パンを食べただろう?もうすぐ7月という炎天下でな。何を今更...。」

認知症診断テストでもするつもりか?

まだ高校生だぞ?


「じゃ、昨日の夕飯は?何食べた?」

それでも構うことなく、雄大は質問を続ける。

「夕飯?」

俺は昨日の事を思い出す。


えーっと、

昨日は、櫻崎さんと別れてから直帰した。

そこからすぐに風呂に入って。

で、原稿の校正に取り掛かろうと時計を見たのが21時半....。

で、執筆に夢中になり、今日は筆が走る日だ!徹夜するか!ってなって...。

いつも通り、朝...になって..。

眠い目こすりながら、学校行く支度して、家出て、雄大に会って.....。

....あれ?

俺、夕飯、食ってなくないか?

自問自答に自問自答が重なる。

「...、食ってない。昨日の昼からなら、これが初めて。」

俺は、スティックパンを見つめて、口の中に放り込む。

ふむ。

「な?175cm、細見な高校生男子が1日2食。しかも菓子パンだけ。」

ふむ。

「これが、今の奏汰の食生活。このヤバさ分かる?分かってる?分かった?」

なんか、今日の雄大、しつこいな。

「...まぁ、不規則な生活リズムになっている、のは、認める。」

やむを得ず肯定すると雄大が大げさに溜息をついた。


「はぁ。早く奏汰の面倒見てくれる奴探さないと、奏汰、絶対、栄養失調で早死にするよ」

失礼な、と言い返したかったが、今の俺にはぐうの音も出せなかった。



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