57話 帰り道

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そんなこんなで、俺達は追加の仕事を受ける事になった。

出版社からの帰り道、俺は未だに信じられないでいた。


予約件数だけで4.5万部はえげついだろ....。



これは、あれだな。


俺一人の力じゃ絶対にない。



本を出版してから爆売れするのは聞いたことがあるし、自分も経験はあるが、こんな発売日前から爆伸びするライトノベルなんて聞いたことがない。



「予約販売4.5万部、このブースト具合、絶対サクラザキ先生効果だろうな....。」

俺は、隣を歩く櫻崎さんに目をやった。



「?」

俺の大きすぎる独り言に、櫻崎さんは、

一瞬、きょとんとし、それからブンブンと顔の前で手を振って謙遜した。

「そ、そんなことありません。私なんて....」



「いや、サクラザキさんが人を引き付ける表紙を描いてくれたからこそ、こうして発売前から爆伸びしているんだと思う。」

謙遜とか、おだて一切無しで言っても、これは本当にそう。

「そんな、全然ですよ」

「いや、本当にサクラザキさんの力が大きいと思う。」

だって、中身は俺の小説であるが、

実際のところ、まだ、俺の文章はあらすじくらいしか世に出てないし、


人々が、『このラノベ面白そう。買いたい。』と思い、購入を考えるきっかけになるのは、

出版社の新刊情報サイトに掲載された、

あらすじや、表紙だけなんだから。


いくら俺の前作のファンであったとしても、俺が作る物語が毎回全てのファンに刺さる内容かって聞かれたら自信ない。

しかも、不特定多数の人がいる

webサイトで、

目に止まりやすい、人を引き付けやすい、

仕事をしているのは、


物語のあらすじ? or表紙のイラスト?ってなったら、


絶対にサクラザキ先生の描いた表紙のイラストだと思う。

断言できる。


それに、あの表紙を飾っているヒロイン、清楚系な天使みたいにふわふわしてて、

白ウサギの耳垂れパーカーを涙目で着ている姿なんて、可愛くて仕方がない。太もももいい仕事をしている。


ラノベとか、漫画、アニメってのは、

話が面白い、面白くない以前に、作画がよければ何かと期待してしまうものだ。

タイトルとか表紙に惹かれ購入したが全然面白くなかった漫画やラノベを買って萎えた事はあるが、その経験をしていても、面白いタイトルを見つければ買うし、可愛い美女が表紙になっていたら同じ過ちを犯すリスクをしょってでも購入ボタンを押してしまうのがオタクである。


だからこそ、驚異的な売れ行きを後押ししているのは、

櫻崎さんの画力だと断言できる。

さすが、神絵師だ。


「うぅぅ。本当ですか?」

素直に褒めると、恥ずかしそうに頬を赤らめた。


「ああ。それに、サクラザキさんがTwittterで告知してくれたイラスト付きの『義妹隠し』の発売日情報、めちゃくちゃ拡散されてたから。」



やっぱ、絵師の拡散力は凄い。


櫻崎さんは、こまめにTwittterを更新しているし、他の絵師や活動者との絡みも積極的にしている。




俺なんて、SNS系、めんどくさくて書籍の店頭発売日に出版社の告知をリツイートするだけだし。

フォロワーはそこそこいるが、俺が活発的じゃないから、リアルタイムで反応をくれる奴らは、数十人くらいだ。



まぁ、

ラノベ作家をフォローする人の多くは、

『人見知り陰キャぼっち』だからってのもあるんだろうけど。


「そういえば、西野君」

櫻崎さんが、ふと思い出したように口を開いた。

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