56話 仕事のキャパ

■■■■■

「なるほど。そうやってボイスドラマCDが作られ販売されていくわけなのですね。」

丁寧な説明、ありがとうございました。

「いえいえ。また分からない事があればなんでも聞いてください。」


「つまり、櫻崎さんは絵を描いて、俺はボイスドラマの原稿を書けと...?」

俺は一通りの説明が終わった山本さんに聞いた。




「はいっ。えっと、ですね。収録作は3話で、全部で8~15分くらいの長さ。各話の尺や展開は先生のお任せで良いそうですが、出来れば、秋から冬にかけての設定にしてもらって、発売時期と設定を合わせたいとのことでして....。あと、1作だけはヒロイン目線のASMRのようなシチュエーションボイス脚本が良いとのことです。」

山本さんが手元の企画書を読み上げる。


8~15分。一話4,5分でだいたい、1500字くらいか。それを3作分。

だから、まぁ、5000字ちょい、だな。



まぁ、どんな内容のストーリーにするか、考える時間も含めて5日あったら終わる量だ。

全てを犠牲にすれば....だが。


俺は少し考え、それからすぐに結論を出した。


■■■■■



「分かった。書くよ。」


「わぁ!ありがとうございます!!

先生ならそう言っていただけると思っていました!!」

山本さんの行動に白々しさを感じないわけではないが、まぁ、この頑張りで俺の書籍がさらに売れるのなら、今頑張らない訳にはいかない。


「俺に拒否する選択肢は無いよ。

断れば、たぶん、編集長に首の骨へし折られる。」

どーせ、この案件も編集長が持ってきたものなんだろうし。


「....否定はしません。」

えへへ。と山本さんが言葉を濁した。

「わ、私も描きますっ!イラスト!」

「サクラザキ先生ー!ありがとうございます!!」

「私は、そのCDケースの表紙イラストを描けばいいんですよね?」

櫻崎さんが、自分に振られる仕事を確認するように口を開いた。



「はい。サクラザキ先生には、ケースの表紙イラスト等をお願いしたいです。」


「分かりました。」

コクリと頷く。


「それと、2巻は特装版と通常版の2種類出る事になると思います。ですので、特装版小説本と通常版小説本で別々の表紙カバーイラストをお願いすることになると思います。」

「それって、つまり、倍の作業量になるってことだよな?」


「はい。サクラザキさんの制作負担が通常の倍になってくるかと思います。それでも、大丈夫そうですか?2巻の刊行は3か月後になりますので、納期的には今から2か月くらいの短いスパンになってしまうのですが、、、。」

他のお仕事依頼もあると思いますので、難しそうであればドラマCDのイラストは他の絵師さんに頼んでも……。

「大丈夫です!!やります!!ぜひ私にやらせてください!!」

やや遠慮がちに詰め寄る山本さんに櫻崎さんが勢いよく答えた。

「無理なく出来そうですか?」

「はい。大丈夫です!」


「分かりました。では、そうお伝えしておきます。ですが、本当に無理だけはしないでくださいね。体を壊しては元も子もないですから。」

「はい。」

「それは、虹乃先生も同じですよ?」

一緒に火の粉が飛んできた。

「あー。はいはい。体調管理気をつけます。」



「では、サクラザキ先生には、後ほど

イラストサイズや解像度などの指定条件をまとめた資料を、メールでお送り致しますので、また、可愛くて綺麗なイラストをよろしくお願いいたします!!」


「はい!頑張ります!」

山本さんの言葉に、

櫻崎さんは、勢いよく頷いた。



俺は『清楚で可憐な義妹の隠し事』の2巻発売が確約され、ドラマCD用の原稿を書くという仕事が追加された。

サクラザキさんは、2巻の特装版と通常版、ドラマCD用のイラストを描く仕事を引き受けた。


この時、俺は、櫻崎さんの仕事のキャパを理解しておくべきだった。

櫻崎さんの性格を知っておくべきだった。

櫻崎絃葉という人間は、無理を隠す女である事を、彼女が重大な秘密を抱えていることを、俺は、まだ、知らなかった。


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