56話 仕事のキャパ
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「なるほど。そうやってボイスドラマCDが作られ販売されていくわけなのですね。」
丁寧な説明、ありがとうございました。
「いえいえ。また分からない事があればなんでも聞いてください。」
「つまり、櫻崎さんは絵を描いて、俺はボイスドラマの原稿を書けと...?」
俺は一通りの説明が終わった山本さんに聞いた。
「はいっ。えっと、ですね。収録作は3話で、全部で8~15分くらいの長さ。各話の尺や展開は先生のお任せで良いそうですが、出来れば、秋から冬にかけての設定にしてもらって、発売時期と設定を合わせたいとのことでして....。あと、1作だけはヒロイン目線のASMRのようなシチュエーションボイス脚本が良いとのことです。」
山本さんが手元の企画書を読み上げる。
8~15分。一話4,5分でだいたい、1500字くらいか。それを3作分。
だから、まぁ、5000字ちょい、だな。
まぁ、どんな内容のストーリーにするか、考える時間も含めて5日あったら終わる量だ。
全てを犠牲にすれば....だが。
俺は少し考え、それからすぐに結論を出した。
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「分かった。書くよ。」
「わぁ!ありがとうございます!!
先生ならそう言っていただけると思っていました!!」
山本さんの行動に白々しさを感じないわけではないが、まぁ、この頑張りで俺の書籍がさらに売れるのなら、今頑張らない訳にはいかない。
「俺に拒否する選択肢は無いよ。
断れば、たぶん、編集長に首の骨へし折られる。」
どーせ、この案件も編集長が持ってきたものなんだろうし。
「....否定はしません。」
えへへ。と山本さんが言葉を濁した。
「わ、私も描きますっ!イラスト!」
「サクラザキ先生ー!ありがとうございます!!」
「私は、そのCDケースの表紙イラストを描けばいいんですよね?」
櫻崎さんが、自分に振られる仕事を確認するように口を開いた。
「はい。サクラザキ先生には、ケースの表紙イラスト等をお願いしたいです。」
「分かりました。」
コクリと頷く。
「それと、2巻は特装版と通常版の2種類出る事になると思います。ですので、特装版小説本と通常版小説本で別々の表紙カバーイラストをお願いすることになると思います。」
「それって、つまり、倍の作業量になるってことだよな?」
「はい。サクラザキさんの制作負担が通常の倍になってくるかと思います。それでも、大丈夫そうですか?2巻の刊行は3か月後になりますので、納期的には今から2か月くらいの短いスパンになってしまうのですが、、、。」
他のお仕事依頼もあると思いますので、難しそうであればドラマCDのイラストは他の絵師さんに頼んでも……。
「大丈夫です!!やります!!ぜひ私にやらせてください!!」
やや遠慮がちに詰め寄る山本さんに櫻崎さんが勢いよく答えた。
「無理なく出来そうですか?」
「はい。大丈夫です!」
「分かりました。では、そうお伝えしておきます。ですが、本当に無理だけはしないでくださいね。体を壊しては元も子もないですから。」
「はい。」
「それは、虹乃先生も同じですよ?」
一緒に火の粉が飛んできた。
「あー。はいはい。体調管理気をつけます。」
「では、サクラザキ先生には、後ほど
イラストサイズや解像度などの指定条件をまとめた資料を、メールでお送り致しますので、また、可愛くて綺麗なイラストをよろしくお願いいたします!!」
「はい!頑張ります!」
山本さんの言葉に、
櫻崎さんは、勢いよく頷いた。
俺は『清楚で可憐な義妹の隠し事』の2巻発売が確約され、ドラマCD用の原稿を書くという仕事が追加された。
サクラザキさんは、2巻の特装版と通常版、ドラマCD用のイラストを描く仕事を引き受けた。
この時、俺は、櫻崎さんの仕事のキャパを理解しておくべきだった。
櫻崎さんの性格を知っておくべきだった。
櫻崎絃葉という人間は、無理を隠す女である事を、彼女が重大な秘密を抱えていることを、俺は、まだ、知らなかった。
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