55話 やってきた仕事
「つまり、追加の仕事ができた、そういう事か。」
「さすが、先生ぃ!お目が高い。」
や、その言い回しはどうかと思うが....。
けど、ここまでお膳立てされれば、否が応でも悟ってしまう。
ようやく、脳内整理が追い付いたのか、今まで放心状態だった櫻崎さんが疑問を口にした。
「私達に追加のお仕事....?」
「はい!ボイスドラマ制作に伴い追加のお仕事ができました!」
「はぁ。」
俺が頭を抱えるのとは反対に、櫻崎さんが「ほわぁあっ」と嬉しそうに目をキラキラさせていた。
「その前に、今、先生方に依頼しているお仕事の最終確認をさせてください。」
山本さんが、机の上に置いていたバインダーを手元に引き寄せ、数枚の紙をめくってスケジュールを確認、読み上げ始めた。
「えーっと、先に虹乃先生から行きますね。先生は、7月末までに『俺の存在がバレると世の中大混乱すると思います6』の最終原稿の提出、8月中に『2度世界を救ったので今度こそスローライフを送ります6』と別レーベル出版の『俺の事が大嫌いと振った女が3年後頬を染めて告白してきた6』のプロット、原稿一時提出が控えています。どちらも11月発売予定なので、最終原稿も10月頭には提出しときたいですね。」
はぁぁ。
頭ではわかっていたつもりだが、こうして時系列で並べられると、ほんと、この仕事量に頭がおかしくなりそうだ。
「10月の秋アニメ枠『死んだ恋人に俺を重ねてくる先輩を好きになっても俺に勝ち目はあるのだろうか?2期』通称『死に恋2』の放映も控えているので、7月、8月頭にかけて原作者の仕事がいくつか、、、、。あと、『死に恋2』声優の舞台挨拶イベントで、音声のみでの出演も9月にありますね。そこで声優さん方が使う生アフレコ用原稿の提出も9月初旬、いや、8月中にお願いしたいです。」
「はい。」
「次は、サクラザキ先生です。」
「はい。」
「サクラザキ先生には、現在、10月発売の『清楚で可憐な義妹の隠し事2』の書店購入者限定特典として、ランダムでお渡しするポストカード用の書下ろしイラスト計8種類の制作をお願いしているかと思います。」
そうなのか。てか、ポストカードの話はもう出てたって、それも早いな。
「はい。ポストカード用のイラストはもう描き始めています。」
「ありがとうございます。あと、弊社以外のお仕事として8月末までにVtuberのLive2D用のパーツ分けイラスト、立ち絵の制作が1件、歌い手さんのサムネ制作2件があると伺っています。それ以降でお仕事が増えたりとかはされていないですか?」
仕事の負担をかけないようにする工夫なのだろう。山本さんは櫻崎さんの
「はい。今は、お仕事をセーブしているので....」
「分かりました。では、」
「あとは、『清楚で可憐な義妹の隠し事』の表紙と挿絵のイラストですね。これは、、、虹乃先生の原稿ができ次第、正式なオファーという形になるので、まだですが、遅くても8月末には挿絵依頼がいくと思います。申し訳ありませんが、その分の仕事の余裕は確保しておいてもらえると助かります。」
「もちろんですっ」
なんとなく、言葉の中に『先生早く原稿書け』という圧を感じる....。
小説を出版するのは、一見簡単そうに聞こえるかもしれないが、途方もない時間と労力、人員を費やすものである。そして、その中心にいるのが小説家であり、一番足を引っ張る人物だったりする。
かくいう俺も、今、筆が遅すぎて、約束の期日を大幅に破るなんて所業は日常茶飯事。
申し訳ないとは思っているが、手を抜いて妥協した作品を世に出すのは嫌だからと作家の意地でなんとか許してもらっている。。
そういうことで、サクラザキ先生は俺原稿が完成していない今は、まだ、挿絵はもちろん、表紙の作業に取り掛かれない状況だったりする。
すまないが、2巻の原稿はもう少しだけ待っていてほしい。
「以上が、今、先生方にお願いしている仕事の大まかなスケジュールになります。」
山本さんがバインダーを閉じて顔を上げた。
俺の仕事量もしかりだが、櫻崎さんもフリーのイラストレーターってだけあって、結構な仕事をこなしていく必要があるのだと知った。
「これを踏まえて、今回の追加の仕事の調整をお願いしたいです....。」
山本さんが話を次に進めようとしたとき、おずおずと櫻崎さんが手を挙げた。
「あの....ボイスドラマのお仕事とは、具体的にどのようなものになりますか?」
どんな流れで進行していくのかイメージが出来なくて....。以前、Vtuberさんのボイスドラマのお手伝いをさせてもらった事はあるのですが、そのような感じだと思っておけばいいでしょうか?
「経験不足ですみません。」
櫻崎さんが遠慮がちに頭を下げた。
「いえいえ、こちらの説明不足なので、分からない事があればじゃんじゃん聞いてくださいっ!」
確かに、俺は何回かボイスドラマの脚本を書いたことがあるが、書籍化の仕事が初めての櫻崎さんにとって流れがつかめないのも無理はない。
「私も仕事調整のほうばかり気にして話を進めていたので。すみません。説明不足でしたね。えーっと、ここに....入れてた気が....あっ、ありました、ありました!」
そういいながら、山本さんがファイリングされていた資料の中から一枚の紙を取り出し、櫻崎さんに見えるように机に広げた。
以前、Vtuberさんのボイスドラマのお手伝いをされていたということで、大まかな事は把握されているかもしれませんが、一応、弊社の、出版業界のボイスドラマの制作過程をお伝えしますね。
そうして、一通り、制作の過程が説明された。
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