50話 雄大の真面目な話

真面目な話か。と本能で悟る。

「奏汰はさ、高校卒業するまで、ずっと、この生活続ける気なのか?」

この生活とは、小説家と学業を両立させていくっていう話か?俺はそう理解し返事を返す。

「....徹夜は勘弁だが、まぁ、そうなるだろうな。」


「お金が稼げるかもしれない。けど、明日には奏汰の名声は消えてなくなってしまうかもしれない。SNSの炎上とかでさ。奏汰の居る世界はそんな場所だ。そんな不安定な世界にこれからも足を突っ込んで生きていくのか?」

「....それが、俺の選んだ道だからな....」

「黄金の青春期と呼ばれている高校時代。それを奏汰はこれから先も不変的に続くであろうただの日常の一コマとして過ごしていくのか?」

この言葉が少しだけ俺の胸に細い糸のように絡まった。

■■■■■


「てか、さっきから....。お前は、何が言いたいんだ?」

雄大の話の意図が全然読み取れない。

雄大もまた、自分の言いたいことが相手に伝わらないもどかしさを感じていた。

「....。俺もなんて伝えたらいいか分かんないんだよ。でも、なんか、あるじゃん!ほらっ!!」

弁当箱の上に箸を置き、両手を使って大きく何かを体から取り出すジェスチャーをしている。

「ほら、これっ!!こーいうかんじ!」

「何も伝わってこないが?」



「だぁー!!ド直球に言ってしまえば、奏汰の人生の中で一度きりの高校生時代が、そんな社畜みたいなブラックな生活で終わってしまう事が俺的に、なんか寂しいってわけ!」

分かる?

とてつもない熱量で同意を求められるが、俺にはピンとこなかった。


「学生時代から仕事に命を注ぐことが寂しいか?本が売れたら金、儲かるぞ?」

頑張れば、頑張った分だけ世間が評価してくれるし。


「その、お金だけの思考になっている時点で、奏汰はだいぶん、悲しい人間になってると思う。普通の高校生の思考じゃねーもん。」


「そんな事を言ったって、俺のタイムリミットは高校卒業までだから。それまでに、努力しないとだろ。」

出来るだけ思い出したくはないが、それでもいつかは必ず通らなければならない道。

あの男の顔を思い出すだけでも吐き気がするし、昔の自分の無力さに虫唾がはしる。

母さんは、あいつに殺されたようなものだ。




「それは、分かってるけどさ......。奏汰、黄金の青春期だぞ!青春、アオハルだぞ?もうちょっと、生活に華が欲しくないわけ?」

「欲しくない。」

「はぁ。即答かよ。」

雄大には悪いが、今の生活に満足しているし、これ以上、生活の質を上げようなんて向上心も持ち合わせていない。俺は本を書いて、物語が読み手に深く刺さればそれで満足だ。



「はぁーぁ。奏汰がこんなんじゃなー。先が思いやられる。試しに、櫻崎さんと一緒に夏休み遊んでみるとかすればいいのに....。」


うぐっ。

げほっ。げほっ。

思わず、食べていた焼きそばパンの麺が喉に引っかかった。

「え? 奏汰、なにむせてんだよ。ほら、水、水、飲んで。」

げほっ、ごほっ。

危うく、口の中から飲み物が飛び出そうになるのをどうにか、こらえ、雄大から水の入ったペットボトルを受け取り、流し込んだ。

「はぁ。サンキュ」

危うく、窒息しかけた。

「大丈夫そうか?」

「あ、ああ。」

俺は勢い余って口から溢れた水を拭って落ち着いた。


「で、どーよ?」

「なにが?」

「だーかーらー、櫻崎さんにコクって一緒にWデートしよーぜ!!」

雄大は今までの神妙な話はどこへ?と突っ込みたいくらいの笑みで親指をグイっと立てて見せた。本当に陽キャのテンションには着いていけない。


またその話か。

俺は、既視感を感じながら、溜息をつく。

「なんで俺が櫻崎さんに告らないといけない?」

「告ると付き合えるじゃん?」

「振られるの間違いだろ」

「そうか?奏汰、最近、櫻崎さんと仲よさげじゃん?」

「それは席が近いからだ。」

「えー、今まで奏汰、隣の女子と休み時間も話してる姿見たことなかったけどなー」


「あれは、俺が読んでいた本を櫻崎さんも知っていて話が弾んだだけだ」

嘘は言ってない。




そもそも、どこから櫻崎さん×Wデートみたいな設定を持ってきたんだよ。


「櫻崎さんは高嶺の花。つまり、学校の人気者。そんな人と付き合うなんて戦場に武器も持たずに突っ込んでいくようなものだ。絶対にありえない。悪目立ちしたくないし。面倒だ。」

何が起きるか馬鹿でも分かる。


「出た、出た。陰キャ発言。」

「根暗でも、陰キャでもいい。とにかく、俺は、高校には形だけ通っておけばいいんだ。高校ここではひっそり生きる。」



「はぁ。奏汰に青春を期待するのは無理なんだろうなー。」

呆れたように溜め息をつかれた。



大きなお世話だ。

そう言い返そうとした時、俺のスマホが震えた。


プルルルル、プルルルルッ


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