急展開
49話 もうすぐ7月
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時は流れ、もうすぐ7月になろうとしていた。
櫻崎さんが、あのイラストレーター、サクラザキであると知って1か月。
その間、書籍関連では、色々と進展があった。
1次校正、2次校正、最終チェックと原稿は順調に進み、あとがきも書いてオッケーをもらった。予定の納期より少し遅れていたサクラザキ先生の挿絵のデータも揃ったため、先週、書籍出版許可が下りたところだ。今頃、俺の原稿とサクラザキ先生のイラストデータが都内の印刷会社でせっせと製本されているに違いない。先週の水曜からは、出版社のホームぺージの新刊情報、8月出版の欄に俺の、俺達の新作『清楚で可憐な義妹の隠し事1~俺は何も知らないし見ていない(汗)~』が掲載されていて、同日からネット通販や全国のネット書店なんかで予約販売も始まっている。
けれど、俺達は互いに自分の割り当てられた仕事を各自でこなすだけ。
仕事仲間だからと知ったところで、別に、学校での距離感が変わるわけじゃなかった。
まぁ、当たり前だけど。
共通の話題が見つかったと言っても、公に人前で話せる内容じゃない。
だから、
「西野君、おはようございます。」
「ああ。櫻崎さん、おはよう。」
一日で交わす会話は、席が隣同士、の特権を利用した社交辞令の挨拶くらいだった。
■■■■■
昼休み。
俺は、屋上で雄大と弁当を広げていた。
「相変わらず、奏汰は購買のパンかー」
雄大が人の昼飯に、いちゃもんを付けてくる。
「パンの何が悪い。」
「いーや、別にー。」
雄大がわざとらしく口笛を吹いた。
なら何故、そんな目で見てくる。
「いやー、なんか可哀想だなと思って。」
「可哀そう?俺が?」
それは、随分と、上から目線な物言いだな。
「俺が、お前と違って、彼女の愛妻弁当を食べられないから、とか、そういう事か?」
俺は、色とりどり、栄養満点の手作り弁当を頬張る雄大に嫌味ったらしく言うと、雄大の彼女をイジった事はスルーして、首を横に振った。
「や、そーじゃないけどさ、、、」
「じゃ、なんだ?」
「んー。やっぱ、なんでもない。」
雄大は、否定したが、何か言いたげな顔で、
ジーっと俺の顔を見てきた。
「なんでもなくはないだろう。そこまで話を切り出しておいて話さないのは無粋だ。」
俺が詰め寄るとようやく口を開いた。
「えーっと、、、んー。なんていうかさー」
「なんだ?」
俺がさらに聞くとぼそっと口を開いた。
「なんか、奏汰ってさ、お金はあるけど、人生、損してるよなーって思ってさ。」
損?どこが?
「だってさ、奏汰は、ラノベ界隈では有名人になったし、高校生だけど一人で生計を立てている訳だし、言ってしまえば、お金持ちじゃん?」
「ああ。」
否定はしない。その金を使えるか否かはおいておくが。
「お金持ちって、俺のイメージ、幸せを意味するもんだと思ってたし、実際、今でも、宝くじで億万長者を夢見る事はある。」
「だけど、奏汰の日々の生活って、徹夜で小説書く、学校行く、眠い目を擦って小説書く。それの繰り返しじゃん?」
「まぁ、それが仕事だからな。」
学生は学校に行くし、小説家は小説を書く。
当たり前の事だ。
「せっかくお金稼いでるのに締め切りに追われてちっとも楽しそうじゃない。」
何故か雄大が不服そうな顔をしている。
「そうか?まぁ、締め切りに追われているのは否定しないが、小説書くのは個人的に楽しんでるぞ。自分の頭の中の妄想を文字にするのは結構いけるぞ?」
「や、そうじゃなくて、さ、あ``ー、なんて言ったら良いんだろ。」
まだ何かを伝えたりないらしい雄大が、クシャクシャと頭を掻きむしった。
「じゃ、ちょっと話変えるわ。奏汰、」
「なんだ?」
俺が返事を返すと、雄大が食べていた弁当箱を床に置いて俺に正面から向き合った。
俺と目が合った雄大の顔は笑っていなかった。
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