48話 日直

「ぬぐぐぐっ。西野マジでげせん。」

「あの櫻崎さんと日直だなんて....。」

「櫻崎さんは皆の櫻崎さんなんだぞぉ。」

一緒に黒板を消していたら、後ろから視線が刺さる。

「はぁ。」

そんな視線を無視しながら、日直の仕事をこなしてゆく。


「櫻崎さん。黒板消し貸して。クリーナーにかけるから。」

「あっ、はい。ありがとうございます。では、私は、チョークの補充をしてきますね。」

「ありがとう。」


「あの、西野が櫻崎さんにお礼を言われているぞっ。」

「クッソ、西野ずるいっ!!」

「今日は西野にかわれるもんなら変わりてぇわ。」



「あのっ、西野君」

「ん?」

「先生に今朝回収したアンケートと英語のワークを職員室に持ってきてほしいと頼まれて、手伝ってもらってもいですか?」

一人じゃ持ちきれなくて....。

「ああ。もちろん。じゃ、こっちのワークは俺が持つから。」

アンケート用紙を頼む。

「すみません。ありがとうございます。」


そうして時は過ぎていった。


そんな地獄の日直が終わった放課後、日誌を職員室に届けた帰り、偶然通りかかった社会科の先生に呼び止められた。

「おーい。お前ら今日の日直だったよな?これ、資料室に返しておいてくれるか?」

先生が運んでいた地理の授業で使った年表の巻物とDVDの束を差し出す。

「分かりました。」

俺が巻物、櫻崎さんがDVDのカゴを受けとる。

「先生、これから職員会議に行かないといけないんだ。すまん。」

「いえいえ。」

「鍵は開けといていいからー」

そう言って、急いで消えていった。

「じゃ、いこうか。」

「はい。」

放課後、部活で残る生徒以外、校内にいない。

部活棟と校舎が離れているから、廊下は誰もいなかった。

シーンとした廊下を2人で歩く。



■■■■■


「よし。ここに置いておけばいいだろう。それも一緒に置いておくよ。かして。」

「あ、ありがとうございます。」

「いいよ。ここ、ちょっと高いし、扉の開き方、ちょっとコツがいるから。」

俺は、少し高い位置にある戸棚の引き出しに巻物とDVDのカゴをしまった。

「ありがとうございました。」

「いや、俺も日直だから」

お礼言われるような事なにもしてないが。

「いえ。西野君にはいつも助けてもらっていますので。感謝の言葉は言い足りないくらいです。」

「俺、そんな親善者になった覚えないけどな」

「ふふふっ。いいのです。今は、私だけの秘密です。」


「そうか。」


「ふふっ。」

何が秘密なのか知らないが、櫻崎さんは嬉しそうに笑っていた。

他愛のない会話をして教室に戻り、日誌の続きをして、本日の日直の仕事を完遂した。

気付けば、教室には俺達、2人きりになっていた。

「じゃ、俺、これ職員室に出してから帰るから。櫻崎さんはもう帰ってていいよ。」

「いえ、一緒に提出しに行きますよ?」

「あー。いい、いい。これくらい一人でできるし。大丈夫。」

「そう、ですか?」

「ああ。」

「では、お言葉に甘えて....」

櫻崎さんが帰ろうとする。その後ろ姿を見て思い出した。今日、彼女へ用事があったことを。

「あー、忘れてた。俺、櫻崎さんに渡したいものがあったんだ。」

「渡したいもの?」

俺は、一旦日誌を置いて、カバンの中をゴソゴソと探した。


「あった。あった。これ。よかったら。」

俺はいつか、二人で話せるような機会があれば、と、あの日から常に持ち歩いていた茶色の紙袋を彼女の前に差し出した。

「?」

「この前のイラストのお礼、、、と言っては少なすぎるかもしれないけど、」

櫻崎さんは、袋の中身を覗き、あっ!と声を上げた。

「こ、これ!もしかして!」

「ああ。虹乃彼方の出版小説の献本。全部初版印だし、少しは喜んでもらえるかなと。」

「っつ!!な、中を見てもいいですか?」

キラキラとした瞳で見てくる。

恥ずかしいからできれば家に帰ってから見て欲しかったが、そんな瞳で見つめられたら「どーぞ。」としか言えない。


俺の了承を確認し、彼女は袋の中から一冊取り出すと、表紙、裏表紙を数秒眺めてからゆっくりと表紙をめくった。瞬間、キラキラとした声が上がる。


「ほわぁっ!!サインまで入っていますよ!!」

「あ、ああ。一応。」

「ありがとうございます!!」

「や、ここまで喜んでもらえると思っていなかった。こちらこそありがとう。」

「一生の宝物にします!!」

「ふっ。」

櫻崎さんが興奮気味にお礼を言うので、つい笑ってしまった。


「はっ!すみません。私、学校なのに、こんな、はしたない姿……」

虹乃先生からのプレゼントについ、熱くなってしまいました。櫻崎さんは、火照った顔の熱を冷ますようにはたはたと手で顔を扇いでいた。


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