45話 プレゼント

■■■■■

「だぁー!終わったぁー。」

俺はサインペンを投げ出し、机に突っ伏す。

もうやだ。ゲシュタルト崩壊しそう。文字見たくない。書きたくない。絶対、明日、腕が筋肉痛。疲れた。もう嫌だ。


「お疲れ様でした。西野君。」

「先生、お疲れ様でした。」

2人からのねぎらいの言葉が少しだけ疲労を浄化させてくれた。

途中から、後ろで他の仕事をしていた山本さんがノートパソコンを閉じ、山積みになった色紙を段ボールへしまっていく。

その様子をぼーっと見ていたら、ツンツンと肩を叩かれた。

「西野君。」

「んぁ?」

顔を上げると、向かいに座っていた櫻崎さんが席を立ち、俺の横に立っていた。

反射的に飛び起きたら、机の下で思いっきり膝をぶつけた。

「っつ!っ...」

「はっ。すみません。驚かせてしまいましたね。」

「い、いや....。それより、どうした?」


「えっと、あの、これ……」

持っていたB5サイズの画用紙を1枚、差し出してきた。

「?」

「よかったらもらってください!西野君が頑張っていたので、私も、何かしたいと思って。応援です。」

受け取った画用紙をひっくり返すと、絵が描かれていた。

サクラザキさんの絵だ。


『清楚で可憐な義妹の隠し事』の主人公とヒロインが中央に描かれており、イラストの上には横文字で『虹乃彼方先生へ。これからも頑張ってください』とメッセージまで入っていた。


「これ、、、今、描いたのか?」

「はい。時間があったので。」

時間があったと言えど、最初は雑談タイムだったから本腰を入れて作業したのはほんの1時間程度だろう。それなのにこのクオリティー....。

「ありがとう。」

俺は大切に受け取った。

「すみません。手持ちが画用紙しかなくて。色紙があればもっと見栄えがよかったんですけど。」

「や、全然。こーいうの、めちゃくちゃ嬉しい。」

俺がサイン書いてる間、なんか黙々とやってるなと思ってはいたが、まさか、自分に向けて作られている作品だったとは思わなかった。

「これ、サインペンだけで描いたのか?」

「はい。ちょっとだけ、筆箱に入っていた蛍光ペンや色ペンは使いましたけどね。」

「すげー。」

神絵師って、こんな少ない画材でここまで綺麗な絵が描けるんだな。

「ふふ。喜んでもらえてよかったです。」


「えー。すごい!素敵じゃないですか!いいなぁ。」

「あげないぞ。」

のぞき込んでくる山本さんに取られないように、隠すと、

「わ、分かってますよー!そんなんじゃないですってば!」ブーブーと言っていた。


「ふふふ。山本さんにもいつか描いて差し上げますね。」

それを見かねた櫻崎さんが山本さんに約束をしてあげると子供のようにはしゃいでいた。

「わーい!!やったぁ!!」



■■■■■

「お疲れさまでした。」

全ての仕事を片付けて、出版社を出る頃には、

空は真っ暗になっていた。



「今日も、遅くまでありがとうございました。

先生は引き続き、原稿頑張って下さい!!

サクラザキさんも、イラスト、

これから、また、よろしくお願いします!!」



山本さんが、わざわざ、外まで見送ってくれた。


「よろしくお願いします。」

「こちらこそ、よろしくお願い致します。」

俺達も頭を下げる。


「これからも一緒に頑張っていきましょう!」

「「はい。」」



そう言って、俺達は出版社を後にした。

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