44話 和やかな雑談会②

「急に席を外してすみません。戻りました...。」

入ってきたのは、編集長に呼ばれ、出ていった山本さんだった。


「お二人とも、大丈夫そうですか?」

出ていく前、俺たちが人見知りモード全開だったからか心配された。

気まずくなかったか?険悪なムードになっていないか?と不安げにする山本さんに、俺達は顔を見合わせて頷いた。


「全然問題ない。良い感じに打ち解けてきたところ」



「わぁ。それは良かったです!」

山本さんが、俺達の和やかな雰囲気にほっとしたように、にっこりと笑った....。



のも、つかの間.....



ちらりと、俺の手元を見てくる。



うげっ....。視線が痛い。



じとーっと、

陰湿な視線を投げられ、反射で目を反らす。


「…。サクラザキ先生と打ち解けたのは分かりましたけど、虹乃先生?

サイン、全然終わってませんよね?」

それ今日中に仕上げてもらわないと困るんですけど?虹乃先生?

「や、ま、まぁ、はかどってる、けど?ほ、ほら。半分は減ったし。」

苦し紛れに言い訳するが、

机の上には、まだ半分の色紙が山のように積み上げられている。


「虹乃先生、来週までに、

修正原稿を書き上げる約束ですよね?聞くところによると、別の出版社でも納期を延期してもらっているとか。これから夏終わりにかけてアニメ化の監修も待ってますよね?今年の先生は大忙しですよ?

こんな所で油を売っていて良いんですか?

こんな、単純作業、さっさと終わらせて、

家で、執筆したいですよね?」

いつにも増して、圧がすごい。

確かに別の出版社で出版しているシリーズの新作原稿、少し物語のストーリーがまとまりきれなくて、しっくりこないから一時提出の納期を少し延ばしてもらった。けど、それは、元々スケジュールに余裕があったからだし。

アニメの監修だって、アニメ担当の監督さんが描いた絵コンテとシナリオ、アフレコ原稿を見て解釈違いが無いか確認すればいいだけだし。

ここで引き下がっては、これから永遠に編集に飲まれていくだけだ。俺の言い分も聞いてもらわないと。

「サインが単純作業?そんな無機質な動作じゃない。

一枚一枚、丁寧に、心を込めて描いているんだ。」


「でも、そんなにゆっくりしていていいんですか?改稿以外にも、仕事、溜まってますよね?連載小説のプロットとか、色々。」


うっ、うぐっ。

忘れてた。俺、どんだけ仕事溜め込んでるんだ?



さっきまでの甘々対応がどこに行ったのか、

鞭と言う名の激励句を投げてくる。



さすがは、編集担当。

作家の手綱を握ると言うだけある。


「....。だ、大丈夫。

そっちもまだ、期限まで1か月あるし。それに....」


俺がしどろもどろに弁明しようとすると、



眉間にしわを寄せていた山本さんが、

ぺかっと明るく笑った。



「なーんて。冗談。嘘ですよ。

せっかくサクラザキさんと交友を深めていらしたので、そんなことは、とやかく言いません。」



なんだ。狂言か。

「お二人が仲良くされていて、私としても嬉しいです。」


それからは、あっという間に時間が過ぎていった。

山本さんと櫻崎さんの女子トークが始まったり(俺はできるだけ聞かないようにしていた)、学校での俺達の様子に興味を持った山本さんの質疑応答タイムがエンドレスで続いたり。俺は、作業を続けながら、ゆったりとした時間を過ごしていた。


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