43話 和やかな雑談会

■■■■■


会話をして、親睦を深めつつも、

俺の手はあくまでサインに集中させていた。



初めの緊張がほぐれてきた。少し落ち着いた空気が流れる。

そんな時、ふと、疑問に思ったことがあった。



「そーいえば、櫻崎さんって、今日、

いつから出版社こっちに来てたんだ?」



16時くらいには、そこの、

本屋で櫻崎さんを見かけたんだけど。

俺は、暇つぶしで訪れた本屋で櫻崎さんを見かけたのを思い出し、話ついでに聞いてみた。


「ぅ。見られていたんですか?」

櫻崎さんは、俺の問いにギクッと身を固め、何故か、少し恥じらいでいた。



「ああ。俺も、丁度、あの本屋にいたんだ。学校終わりに直で来たら微妙に時間が余ってさ。暇をつぶそうとあの本屋に行ってたんだ。」

「そ、そうだったんですね。」

「それで偶然見かけた。」

あの時はこんなことになると思わなかったから櫻崎さんでも放課後に本屋に寄るんだなくらいにしか思わなかったけど。今思えば、早めに待機していたのかもしれない。


「えーっと、ですね...」

痛いとこを付かれた風に、伏し目がちな目をきょろきょろを泳がせている。



「山本さんが、サクラザキさんとは19時に会う約束だって言ってたけど、もしかして、随分前からこっちに来てたんじゃないのか?」

俺が聞くとピタリと表情が固まった。

「....お恥ずかしい限りです。」

そして観念したように両手で顔を覆った。


「実は、先生に会うのがすっごく楽しみで、約束のお時間はまだまだ先だとは分かっていたのですが、もう、居てもたってもいられず、気づけば、学校が終わってすぐに電車に乗っていました。けれど、さすがに早く着きすぎたと思い、仕方なく、暇をつぶそうと、

本屋さんに立ち寄ったという感じです。」

まるで、悪い事をして罰を覚悟している子猫のように、櫻崎さんがしゅんとケモミミを伏せた。


「別に早く来たなら言ってくれれば良かったのに。」

「そんな、そんな。私がいたらお仕事の邪魔になりますので。」

「そんな気を使わなくても...」

よかったのに。

サクラザキ先生=櫻崎さん=イラストレーター

今思えば、画集コーナーに櫻崎さんがいたのも頷ける。



ソワソワして落ち着かない様子の櫻崎さんを想像してみる。

なんだか遊びたくてウズウズしているマンチカンみたいだ。

可愛い。



学校では、お嬢様キャラが出来上がっているせいで、つい、色眼鏡で見てしまっていたのかもしれない。


「ふっ。」

つい、口元が緩んでしまった。


「うぅ。本当に恥ずかしいですぅ。」

そんな俺の反応に、櫻崎さんはさらに顔を赤くした。




―コンコンコン

良い感じに会話が温まってきたタイミングで、

三回のノックと同時に会議室の扉が開いた。


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