36話 サクラザキさんとは

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山本さんがサクラザキ先生を受付に迎えに行った。



俺が今度出す新作ラノベ。

タイトルは『清楚で可憐な義妹の隠し事。~俺は何も知らないし、見ていない(汗)~』。

略して『義妹隠し』

親の離婚から1年。ようやく慣れてきた新しい土地での母親との2人暮らし。一応、高校には通っている主人公だが、その生活は至って陰キャ男子高校生。その主人公が母親の再婚を期に学校の超美少女クラスメイトと同居する事になり、学校では可憐と謳われている美少女義妹のとある秘密を知ってしまう近年のラブコメでは王道なストーリー展開。

そして今回、そのキャラクターデザインから挿絵のイラストまでを担当してくれるのが、サクラザキ先生である。



山本さん調べでは、

サクラザキ先生としてフリーのイラストレーターとして活動を始めたのは2年前。ちょうど、俺が小説家としてデビューしたのと同時期。

現在のTwitterのフォロワーは、5.1万人。




Twitterは3,4年前に開設され、当時はまだイラスト練習垢だったみたいだ。pixivに昔描いたであろう夢絵などが残っていた。

現在の実績は、

Vtuberのキャラクターデザインからパーツ分け、歌い手の歌ってみたのサムネ制作、

ボカロPのオリジナルMV動画、缶バッジやアクリルスタンド等グッズのデザインなど、


二次創作やVtuber、歌い手界隈を中心に活動しているイラストレーター。



出版社からの書籍イラストの打診は、今回が初めてで、最初は、緊張していたらしい。

顔合わせと今後の打ち合わせのために一度だけ出版社に来る事になった時も、山本さんの顔を見るなり、ドアノブに頭をゴチンとぶつけ盛大な音を響かせていたと聞いている。


そして偶然なのか、必然なのか、

サクラザキ先生は、俺の大ファンだった。

Twitterのフォワーの欄を見てみたが、結構な古参時期にフォローしてもらっていた。

ありがたいことだ。



山本さんいわく、

『大変光栄です!!』『虹乃先生の作品、昔から大好きでしたっ!!』と歓喜していたそうだ。




俺も、担当が決まってから、

Twitterに上がっているサクラザキ先生の作品を見に行ったことがある。



俺と同じく、年齢、性別、非公開のようで、

Twitterから、サクラザキ先生の素性が分かる情報は、あまりなかった。


しかし、

定期的にコメントをツイートしているし、

他の絵師と仲良く絡んでいるし、自分が生み出したVtuberの誕生日や記念配信ではお祝いのツイートを返信したり宣伝したりしているし、


仕事の進捗報告、近況報告をこまめに投稿している様子などから、

几帳面で、

丁寧な性格なのではないか ?と推測できた。



あと、他に分かったことは、

凄く、俺好みな、

綺麗なイラストを描いている人ということだ。



人の目を引き付けるファンシーなデザイン、

これをきめ細やかなタッチで美しく仕上げている感じ。


アニメ的イラストではあるけれど、

どこかリアルが混ざっている透明感が凄い好きだ。



現在Twitterの固定ツイートになっている、

“梅雨×猫耳メイド服少女、描いてみた”

なんて最高すぎだろ。


ゆるふわカールがかかった銀髪、シャムネコっぽい猫耳美少女。

それが白フリルと黒スカートのメイド服を恥ずかしそうに着ていて、梅雨時で雨に濡れたのか少し透ける太ももと、水の滴る前髪のエロさと言ったら半端ない。



『彼女は絶対にツンデレだ』、と言わんばかりに、キリッと眉を釣り上げながらも、

『っつ..恥ずかしい、から、見るなっ...』と目には涙を滲ませる彼女を俺は全力で抱擁したい。




(1.9万いいねなんか少なすぎるくらいだ。)



と思いながら、俺もひっそりと、

プライベートアカウントでサクラザキさんの絵にいいね、リツイートをしといた。

(別にキモ男ではない。オタク男子なだけだ。)


イラスト制作の打診をしたのが今年の初め。だから...、

俺の担当イラストレーターになって、数カ月。



この数カ月、一緒に仕事をしていて感じるのは、仕事の熱量が、今まで組んできたイラストレーターさん以上にあるということ。



仕事が早くて質が良いのもそうだが、

全ての作業において全力投球な感じ。



サクラザキさんのイラストスキルは、レベルが高く、アニメ塗り、厚塗り、グリサイユ、水彩塗り、背景画、わりとなんでもこなせるみたいで、3カ月前、俺の元に届いた『セイカナ』のキャラクターデザインのラフ案は、え?清書?と言っても過言じゃないくらいに色々なパターンで描いてくれていた。





普通、キャラデザの段階ではリテイクされる前提のため、そんなにガッツリ色塗りとかはせず、下塗りだけとか色を確認したい部分だけを細かく塗るとかなのだが....。

どのキャラクターも文句なしに綺麗に塗り仕上げられていた。


こんな綺麗なイラスト仕上げるの、相当な労力と時間がいる、よな ? 他にも仕事あると思うし、大丈夫か?途中で燃え尽きたりしないよな?と逆に心配になるレベルで凄かった。


出版社、もとい、ラノベの仕事は初めてらしいし。もしかしたら、気を張って、無理しすぎているんじゃないか?



この前、本気で心配した俺は、サクラザキ先生の仕事量と熱量について山本さんに尋ねたが、

サクラザキ先生曰く、

『担当イラストレーターいぜんに、虹乃先生の大ファンですので、全然苦じゃないですっ!』と言っていたらしい。




まぁ、本人が大丈夫と言うのならいいか。


ラフ案に描きこまれた絵師からの設定資料コメントから、俺がキャラ原案として提示したプロットと出来上がっていた小説原稿を丁寧に読み込んでくれたことが伝わってくる。



今朝、山本さんから『サクラザキ先生は女性です』聞いた時は『まぁ、そうだろうな』と納得がいった。偏見かもしれないけれど、あんな素敵なイラストを描く人が、無造作な寝ぐせだらけの髪に、ダサTシャツ、短パンの髭オヤジなんて嫌すぎるし、そんな夢の無い世界線はあってはならないし、許せない。



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いけない。


余計な事を考えていたから、手元の作業が何も進んでいない。

俺は、山本さんが出ていってから、何も変化していない白紙の色紙の山を見て溜息をついた。


はぁ。終わらん。



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コツコツとヒールが床を擦る音が聞こえてきた。

『....です。』

『....こ....こ....ですね。』女性の話し声も聴こえる。


多分、山本さんが戻ってきた。

フリーのイラストレーターのサクラザキ先生。


いったいどんな人なのか。

少しだけ緊張する。



サクラザキ先生と、

これから同じ作品を作っていくから。




愛想よく、礼儀正しく、そして、仲良くやろう。




そう決意した時、カチャリと部屋の扉が開いた。




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