33話 仕事


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「そーいえば、俺、てっきり、サクラザキ先生も一緒なのかと思いました」

電話で言ってきたし。

俺は、今朝の約束を口にした。


「私もそのつもりで....、『17時頃に先生が来るので、その時、一緒にどうですか?』とお誘いしたのですが、『お仕事の邪魔をするのは申し訳ないです』、『打ち合わせが終わるころにお邪魔します』と気を使われてしまって...。」



なるほど。


「一応、『打ち合わせは2時間くらいで終わると思います』、とお伝えしたので、サクラザキ先生は、19時頃にいらっしゃるとかと。」


「なので、虹乃先生!」

山本さんがスケジュール帳をガバッと広げて、俺にガッツポーズをしてきた。


「それまでに仕事を終わらせますよ!気合入れて頑張って下さいね!!!」

いきなりのジェスチャーで何事かと思ったが、そういう事らしい。





「...頑張ります。」

山本さんのやる気満々な視線を見て、そう答えるしかなかった。






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出版社の会議室のような、作業部屋のような、

監禁部屋にこもって、山本さんと話し合いながら、雑務をこなし、約1時間半が経過した。



今は、終盤。

作品の原稿や今後の展開について、先に提出していたプロットを用いてすり合わせをしているところである。



「分かりました。

ここと、ここの主人公の描写を細かくして地の文を増やしてきます。」

「お願いします。あと、ここの時系列が1日ずれているので、時間軸を合わせるようにしてください。」

「うわっ。本当ですね。これは俺のミスです。ありがとうございます。」

「いえいえ。」


「あと、この子の魅力をもう少し引き出せればベストです。」


「ですよねー。俺も書いてて思いました。魅力、、メインヒロインの過去の展開を、もう少しいじってみます。そしたらもうちょいキャラクターに深みが出て共感しやすくなるかも。」

「いいですね。じゃ、これはそういう方向でいきましょー。」


俺は、指摘された文章を改稿する宿題を貰った。

改稿含め、多分、2万字くらい書き直す。



この量を1週間程でやってこいと言うのだから、わりと鬼畜な宿題である。


まぁ、スケジュール通り筆が進まず、別作シリーズの校正作業を引き伸ばしてもらっていたから、自業自得ではあるけれど.....。





はぁ。


「改稿作業に修正、改編、大変だと思いますが、よろしくお願いします!

虹乃先生の書くヒロイン達は毎回、可愛いですし、ストーリーも最高です!!

なので、物語の展開に口出すような事は、ありません!!

もう、虹乃先生の一番良いと思う、お話をここに、持ってきちゃって下さい!!」


「了解です」


山本さんのアドバイスは、国語的な矛盾と誤字の指定が大半。



意外とストーリーに口出しはしてこない。


まぁ、プロットそこそこに、自由気まま、行き当たりばったりで作品を紡いでいる俺の作風には、このくらい融通が利く編集者がピッタリで、ありがたい。



これが、期限厳守でプロットに忠実で!とかいう厳しい人だったら、絶対に、こんな小説家、辞めていた。

「えへへ。虹乃先生のお話、本当に面白いです~。私、虹乃先生の担当になって本当にうれしいです!これからも頑張るので、よろしくお願いしますね!」

山本さんが恥ずかしそうに頬を赤らめた。

この小さくてロリ気味な感じ。

マスコットみたいで可愛い。

山本さんに初めて出会ったときは、「え、幼稚園児?」と思ってしまったが、今ではいい癒しキャラが定着している。


こうして作家の士気を高めてくれるのも、編集者の仕事ってことか。



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「えっと、作品に関して、今日、お伝えしようと、思っていたのは、この、くらいですね...。

また完成したらメールで送ってください。」

山本さんが、会社のノートパソコンをぱたりと、閉じた。






そして、俺は、手元に残った、添削された赤文字がびっしり詰まる添削用紙を見て、小さく、溜息をついた。



良い作品を生み出す為に必要な作業だとはいえ、明日からまた添削地獄だと思うと気が遠くなる。



「あとは....、」



山本さんが、ToDoリストを書き留めたバインダーに、一通り目を通し、スケジュールを確認する。




何枚か紙をめくり、山本さんの手が止まった。



「あ。そうそう、これがまだ、残ってましたね」


そう言って、その紙を俺に見せた。



え ?もう、終わったんじゃなかったんですか?

俺、帰る気満々だったんですけど。


「ふっふっふ。

私は虹乃先生の性格をよく知っていますから。

面倒な仕事があると事前にお伝えすると、仮病で来ないと思ったので、あえて秘密にしていたんです!!!」



とても良い笑顔を向けられた。


ごもっともです。



「これが、本日の大本命ですよ!虹乃先生!!」

今日は虹乃先生に、これをして貰いたかったんです!!!!!



勢いのままに、ぐぃと山本さんが1枚の企画書を顔の前に近づけてきた。

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