32話 例の出来事まで秒読み開始
■■■■■
「編集長....」
俺と話していると後ろに立っていた部下の一人が編集長に耳打ちをした。
「編集長、そろそろ.....」
そう言って、ちらりと受付前の時計に視線をやった。
どうやら、編集長はこの後、スケジュールが埋まっているらしい。
「おっと。もうそんな時間か」
「じゃ、先生、また時間あるときに一瞬に食事でも行こうな。」
その八重歯の見えた満面の笑みに、一応確認。
「....もちろん....編集長の奢りで ??ですよね ??」
「まさか、虹乃先生のほうが私より稼いでいるだろう?それに、女性に奢られても先生の分が悪い。違わないか??」
日本の法律に、男は女に金銭面の負担をかけてはいけない、奢らなければいけないっていうルールなど無かったはずだが?
と、突っ込みたいが、面倒くさいので諦める。
「...はぁ。分かりましたよ。また、機会があればご馳走させて下さい」
俺は、『また』を強調させる。
「ははは。去年の年末はごちそうになったな。美味かったぞ。」
「どーも。」
俺は、去年年末に開催され...いや、
強制開催となった忘年会後の3次会で俺のマンションで強制開催された身内懇親パーティーいわゆる『どんちゃん騒ぎ』を思い出し、げんなりする。
本当に酔が回った女性の相手は手に負えない。特に、編集長は隙あらば色気ムンムンで迫ってくる。
そんな事、微塵も思っていない編集長は、グッと親指を衝き上げるとニッと笑った。
「ほんじゃ、来月刊行のラノベの売上祝いを楽しみにしているよ。彼方先生っ!!」
ったく、簡単に言ってくれる。
「じゃぁ、またな。先生」
そう受付のエントランスに編集長の笑い声を響かせると、出会った時のように、片手を挙げ去っていった。
相変わらず、ボーイッシュな人と言うか、なんというか。俺としては、強引な女性と言いたいとこだが、世間体を気にしてかっこいい女性というふうにしとく。
俺は、サバンナの砂嵐のように去っていった編集長の背中をため息混じりに見送った。
■■■■■
「あ、いたいた。虹乃せんせ~い。」
編集長達が去って、入れ違いのタイミングで、
俺の担当編集者がパタパタと、やってきた。
「山本さん。いつもお世話になっています。」
「いえいえ。こちらこそ、先生には、いつもお世話になっております。」
そんなに気負う関係ではないが、一応、挨拶。
「じゃ、行きましょうか。」
「はい。」
俺達は、奥のエレベーターホールへ向かった。
「虹乃先生....」
歩きながら、山本さんが持っていたバインダーを見せてきた。
ぎっしりと、今日やるスケジュールが刻まれている。
「今日は、アニメ企画の打ち合わせと、その他諸々のご説明、あと、作品の進捗スケジュールの確認をしていきます。
取り敢えず、いつもの作業部屋に行きます。」
「了解です。」
「そー言えば、昨日、ようやく情報解禁になりましたね。」
「ああ。10月アニメの....。」
雄大が言ってたやつか。
「#虹乃新作!って、一瞬でトレンド入りましたもんねー。すごかったです。
「別に、俺一人の力じゃないんで。それに、今回のアニメは大御所の声優さんが担当しれくれるし、それの影響ですよ。」
「またまたー。ご謙遜を。先生の作品だから皆さん心待ちにしてくれているんですよ!!」
「どーですかね。」
所詮、いわくつきの俺が逃げ込んだ場所。
虹乃彼方にどういう評判がついているのか知らないが、本心を知れば皆、げんなりするのだろう。
だから、期待はしてはいけない。
「あと、ですねー!!」
自分の担当する作家が波に乗っているのが嬉しいのか、山本さんがいつも以上に興奮気味に俺の作品を語りだす。
それがなんだかくすぐったくて、恥ずかしくて、話をすり替えようと話題を振った。
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