31話 編集長


月島出版株式会社 東京本部


この会社が、ひよっこweb作家をしていた俺を見つけてくれた会社であり、日本一番の売れっ子小説家にしてくれた出版社である。



まぁ、大成したのは、元々、俺に文才があったからなんだが。



それでも、出版社がバックに付く、付かないで小説家としての知名度に雲泥の差が生まれるし、小説投稿サイトで活動している無名の小説家は皆、『死ぬまでに本を出版したい!』という野望を胸に秘めているものだ。

まぁ、俺も昔はそうだった。

小説を書き始めたきっかけは最悪だったけど。



いつも通り、出版社の自動ドアをくぐると、受付に、顔馴染の編集長が向かってくるのが見えた。

これから会議なのか何人か部下を引き連れて歩いている。

編集長は俺に気づくなり、片手を軽く挙げ挨拶をしてきた。


「やぁ、虹乃彼方先生。今日も元気そうでなによりだ」

ボーイッシュなショートヘアに男勝りな性格はまさしく、編集長、という肩書が似合う女性だ。


「こんにちは。編集長...。おかげ様で、今日も徹夜明けです」

俺はその挨拶に笑顔で返した。


「がっははは!!これは失礼。徹夜明けか。

どおりで、先生の目の下が黒い訳だ」


「編集長もお忙しそうで何よりです。

お陰様で、俺は、不眠不休で作品を作らせて頂いております。」


最大限の皮肉を言ったつもりだったが、おおらかな性格の編集長はがははと笑い飛ばして、俺の肩をポンポンと叩いてきた。


「まぁ、まぁ、いいじゃないか。

頑張った分、良い作品になるんだから。

新作も期待しているぞ?」

山本が期待してくれと言っていたからな。

楽しみだ。



無自覚なのか、わざとなのか、勝手にハードルを上げてくる。



「簡単に言わないでくださいよ。

作品を生み出すのがどれだけ大変なことか...。」



「分かっている。その先生達の頑張りで、今、私達、出版社が食っていけているものな。いつもありがとう。虹乃彼方先生。」

編集長は爽やかに笑って、バシバシと背中を叩いてくる。

い、痛い。


いつも冗談ばかりでからかってくるくせに、こういう時だけは、、、、なんか調子が狂う。




「ま、まぁ、俺達小説家の苦労を分かってくれればいいんです....」

正直、編集者がいなければ、生きていけないし、俺だけ偉そうにしているのも、申し訳なくなってきて、俺は言葉を濁した。


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