30話 本屋とお嬢様
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俺が立ち寄った本屋。
店を出ようとエスカレーターに向かった俺。
とある本棚の一角で俺の知る人が立っていた。
“え?、お嬢、様?!”
思わず2度見して、見つからないように、棚の死角に身を隠した。
そう。
地下1階、エスカレーター近くの本棚。
イラスト・画集をメインとするコーナーの前に、クラスメイトの櫻崎さんが立っていたのだった。
驚いた。
本屋に居るという事もだが、高校近くにも、そこそこ大きい本屋があるというのに、学校帰りに、わざわざ、3駅先の本屋に足を運んでいたからだ。
しかも、彼女が手に取り、見ては戻しを繰り返し、吟味しているジャンルは、一般文学や参考書とかではなく、イラストレーターの作画やデジタルイラスト素材を集めた本ばかり。
一つ、俺の脳裏をよぎった。
お嬢様にお絵描きの趣味...?
漫画やラノベのコーナーならば、クラスメイトに進められて買いに来たのか?と無理やり理由付けができるが....。
正直、意外だ。
櫻崎さんと言えば、静かで、礼儀正しくて、本当に清楚で高貴なご令嬢って言葉がよく似合う人物。
学校の休み時間とかは、友達と談笑をしているか、次の時間の予習をしているか、ブックカバーの付いた文庫本を読んでいることが多いと思う。
『習い事も沢山やっている』と風のうわさで聞いたことがある。だから、部活にも入っていないし、放課後、あまり友達と遊びに行けないらしい。
「ごめんなさい。今日の放課後は用事が入ってて....。」
と、申し訳なさそうに遊びの誘いを断り、授業が終われば、速攻で帰宅する櫻崎さんの姿を俺は、何度か見かけた。
おそらく、上流貴族が嗜むダンスやお作法などの稽古事がたくさんあるのだろう。
皆、そう噂していた。
流石、櫻崎お嬢様。
休日の午後は、アフタヌーンティーで優雅にくつろいでいそうだ.....と勝手に思っていた。
だから、今、学校帰りに、本屋でイラストレーター用の画集を手に取っている彼女が、なんか意外だった。
けど、まぁ、俺が人の趣味をとやかく言う義理は無いし、お嬢様でも人には言えない趣味の一つや二つ持っていても不思議じゃないよな。
席は隣同士になったけど、話しかけに行く間柄でもないし。
俺は彼女に気付かなかったことにして、別の通路からエスカレーターへ向かい、会計を済ませ、店を出た。
■■■■■
学校から3駅先。
駅から都営バスで10分。
バス停から徒歩2分。
さっきの本屋の隣。
その場所にそびえ建つ、
大手出版社『月島出版株式会社 東京本部』。
そこが、本日の目的地だ。
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