29話 本屋にて
俺が本屋へ向かうもう一つの理由、それは、
ラノベコーナーで俺の出版した本がおすすめに展示してあることを見つけて、満足感を得るためだ。
『新星!!ラノベ作家、虹乃彼方先生!!最新作!!』
『TVアニメも大ヒット!新章突入!!』
『シリーズ累計3500万部突破!!!』
『10月から新作アニメ放送!』
『アニメ2期制作決定!!!!』
なんてPOPを見たら、たまらなく優越感に浸れる。
作家デビュー当初は、自分の作品が書店に並ぶ事に気恥ずかしさと感動が混ざっていたが、今となっては、「あー、あるな。」ってくらいにしか思わなくなっているので、人間の慣れの早さには怖くなる。
今日は、エスカレーターで降りるとすぐ目の前に俺のコーナーがあった。
『来る8月、虹乃彼方、新シリーズ刊行予定!虹乃彼方先生の過去作まとめ買いのご予約承っております!』
ご丁寧に新刊の宣伝もして下さっている。
出版社系列店とは言え、ありがたいことだ。
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いつも通り、
気になるラノベと漫画を確認して、自分の特設コーナを眺めて、いい感じに時間が過ぎていった。
「そろそろ、時間だな」
俺はスマホで時刻を確認し、立ち読みしていた本を棚に戻した。
この本だけ買っていこう。
数ある欲しいものリストの中から厳選された漫画とラノベを5冊持って、1階にあるレジへ向かおうと踵を返した。
ズラリと並ぶ本棚の間を抜け、再び中央のエスカレーターに向かっていると、見知った顔が視界に入った気がした。
天使がふわりと舞い降りた、そんな表現が脳裏に過った。
一瞬、幻覚かと思った。
何故なら、こんな庶民的な場所に立ち寄る人じゃ無いと思っていたから。
偏見かもしれないが、住む世界が違うと決めつけていた。
見知った高校の制服。
見知ったマロンクリーム色の猫毛。
クリっとした瞳。
いつもの距離ならば感じるであろう気品のある優しい柔軟剤の香りが蘇り、俺の嗅覚をくすぐった。
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