28話 ラノベ作家と本屋
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「さて、どうしようか」
出版社のある駅に着いた俺は、スマホ画面に表示された時刻を見て溜息をついた。
担当編集者の山本さんと約束した時間まで、
あと、30分弱。
駅から出版社までは目と鼻の先である。
今日は、サクラザキ先生も来るって言っていたから、早めに仕事に入ろうか、と思ったが....。
さすがに少し早く着きすぎた。
一度家に帰って荷物を置いてくるには時間が無さすぎるし、かといって、近くのコンビニで時間をつぶせそうなほど短くもない。だから学校が終わるとそのまま電車に乗り込んだのだが.....。
「微妙な時間だ....」
俺は、さっきから1つも進まない腕時計の秒針にため息をついた。
暇だからと言って、1人で喫茶店に入り、優雅にコーヒーを飲む、なんて陽キャ行動、俺にはできない。
「仕方ない。あそこに行くか。」
だから俺は、陰キャでも唯一、輝ける居心地の良い場所で時間を潰す事にした。
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陰キャの溜まり場。
それは、『本屋』だ。
本屋は良い。
ここが自分の居場所なんだと肯定されているような気分になる。心が落ち着く。本の匂いも好きだ。
まるで、仏様の癒しを受けているみたいに心が洗われる。
それに、自然と創作のアイデアが浮かんできたりする場でもあるので、俺は最高の暇つぶし場所と呼んでいる。
幸い、出版社ビルのすぐ隣には、出版社の系列店にあたる地下1階、地上7階建ての巨大な本屋がある。蔵書数は200万冊らしく、たいていの本はここにある。
「確か、まだ買えてない新刊がいくつか出てた。それ探すか。」
俺は上気分で本屋の自動扉をくぐったのだった。
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出版社が経営する地下1階、地上7階建てのビル、これ、全てが本屋である。
ガラス張りの1階にはアニメ、ドラマ化された旬の漫画や小説、雑誌や新聞など、客寄せ目的で万人向きの内装がほどこされ、すぐそこのレジから店員の元気な挨拶が飛んでくる。2階以上は、文芸、文庫、地図、社会、コンピューター、芸術、人文など、各ジャンルに振り分けられ、所狭しと本が並ぶ。
俺は、入口入ってすぐ右、中央にあるエスカレーターで地下に降りる。
地下1階は、ライトノベル、漫画、ゲーム攻略本、作画集などのコーナーが入っている。
いわゆる、宝の山だ。
ふっふっふ。
何を隠そう....。
このフロアー全てが俺の領域である。
中二病を拗らせ、なおかつ、それを仕事にしている俺にとって、このフロアは聖地に近い場所。
自然とアドレナリンが湧き上がってくる。
取り敢えず、面白そうなラノベのタイトルを見つけ、背表紙のあらすじを読み漁る。
これがオタクの醍醐味だ。
ちなみに、主人公が劣等生設定だが実は最強とか、自分の身を犠牲にしつつもヒロインを助けるなんて王道展開が俺は好きだ。
ただ、読むのと書くのは全く別物で、自分の好きな分野は意外にも物語にしにくかったりする。これが最近の悩み。
(好きすぎる故にキャラ設定とかを細かくしすぎるのがダメなんだろうな。)
あと、俺が、ここへ足を運ぶ理由がもう一つある。
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