26話 別に、授業を聞いていればテストで8割は取れるだろう?

「1番、浅井。2番、井上。」

出席番号が呼ばれ、各々、前に取りに行く。

「10番。岡野。」

順位表を受け取った雄大の顔がこわばり、青ざめていくのは、毎度のことながら見ていて面白い。

過去最低レベルでヤバいと言ってたから、今回は相当な順位なのだろう。

サッカー部で毎日忙しいからと言い訳して現実逃避を毎回しているが、さすがに、高校2年の夏前。

大学受験を考えているのならばそろそろ本腰入れていかないと痛い目見そうだ。


「19番、櫻崎。」

.....

「25番、内藤。」


そろそろ行くか。出席番号が近づき、のそりと立ち上がる。ちょうど、自分の席に戻ってくる櫻崎さんと入れ違いだった。櫻崎さんが座らず、俺が通れるよう道を譲ってくれた。

「あ、ありがとう。」

「いえ。どーぞ。」

お礼を言うと、にっこりと笑い小さく頭を下げてくれた。


「27番、西野。」



「31番、渡辺。よし以上。」

順位表を配り終えた藤原先生がパンパンと手をはたいた。

今日の仕事が終わったと言わんばかりの満足げな表情。

「来月末には期末考査があるからな。夏休み、補習に引っ掛かりたくなかったらちゃんと勉強してこい!ってことで、残り時間は自習にする。

好きにしろー。ただし、他のクラスは授業しているから騒ぎすぎないように。」

生徒に自主的に勉強して欲しいのか、授業をする気が無いのか、藤原先生は俺達に成績表を渡すや否や去っていった。


本当にあの人は俺達に授業をする気があるのだろうか。


先生が居なくなったことで、教室のざわつきが一段と大きくなった。

「奏汰。どうだった?」

前の席の雄大が後ろを振り返ってきた。

「んー。まぁ、いつも通りだな」

俺は、5教科のテストの点数とその横にかかれた学年の順位、総合得点の順位に目を落とし答える。

「いつも通り...ってことは、また、学年トップ?」

雄大は俺の言った言葉を反復しながら、なぜか、呆れたように笑われた。

「ん」

言葉数少なく肯定する。

「いやー、エグいねぇ」

声を潜めてニヤリと笑ってきた。

「何がだ?」

「いや、毎日、忙しくしてんのにさー。

ずっと学年1位はえげつないよ」

「そうか?」

「おん。てかさ、奏汰がテスト順位落ちたのは、入試くらいじゃね? 確か、入試は次席だったよなぁ?」

「確かに。そーかもしれない。」

「まぁ、あの時は色々あったし....」

けど、別に、高校のテストなんて、授業聞いていれば8割は取れるだろう。それに、少し自主勉強を足せば高得点間違いなしだ。簡単だろう?




「うぇ。その発言、頭おかしいわ。」

別におかしくはないだろ。キチガイみたいな目で見るなよ。

「けど、学年1位なら女子からモテそうだし、キャーキャー言われそうだけど、奏汰、何も言われないよなー。」

雄大が教室を見渡してボソッと言った。

「そんなルックス悪い訳じゃないから、モテてもおかしくないのに...」

ニヨニヨといやらしい視線を感じる。

どーせ、ろくなこと考えていないのだろう。

「別に。目立つのは好きじゃないし。モテるとか今の俺はどーでもいいから。」

人を好きになる暇があるなら、もっと、小説家として研鑽を積みたい。

「ま、本人が気にしてないから良いんだけどさー」

「普通なら、秀才男子は、もっと話題になって、盛り上がるもんだぜ? 普通ならなー」

意味深な普通を連呼しながら、雄大は、チラリと視線を横に流した。


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