20話 俺の名前がトレンド入りしたらしい
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俺たちは、いつもの通学路を歩いていた。
もうすぐ雨が降るのか、空はジトっと重そうな雲を抱えていた。
「そいやー、奏汰」
「なんだ?」
突然、思い出したかのように名前を呼ばれた。
「秋にさ、アニメするじゃん?奏汰の小説...えーっと、去年の夏アニメの続編……なんだっけ?」
「ああ。『死んだ恋人に俺を重ねてくる先輩を好きになっても俺に勝ち目はあるのだろうか?』の2期だろ?」
SNSではタイトルを略して「死に恋」って呼ばれてるやつ。
「そう!それ!死に恋、死に恋。」
一昨日、丁度、アニメ用のシナリオ2回分の原稿データが送られてきたばっかりだ。
「それがどうかしたか?」
「昨日、アニメの予告PV第一弾がYouTubeに投稿されたじゃん?」
ああ。
そーいえばそうだった。
「で、その影響で、『#死に恋』『#虹乃彼方アニメ』『#虹新作アニメ』でトレンド入りしてたぞ。『虹乃彼方の秋アニメ、情報解禁来たー!!!』って皆、盛り上がってた。」
ほらっ!と、その時のTwitterrのスクショとを見せてきた。
「へー。」
突然のトレンド入り報告をされても、疲弊しきった俺の心にはなにも響かなかった。
「へーって。またまた、随分他人事じゃんか。今も春アニメ枠で放送されている作品があるってのに、つれないなー。」
岡野雄大としては、もう少し興奮して欲しかったようだ。
不満そうな声を漏らしたが、すぐに、持ち前の切り替えの早さで、俺の低反応を受け入れ、納得していた。
「ま、奏汰らしいけど。」
「人間、あまりに認知度が高くなると、トレンド入りしたことぐらいで感動しなくなるんだ」
それ以上に、今が忙しい。
「うわー。」
雄大が冷めた目でこちらを見てくる。
「なんだ?」
「あーあ、トレンド入りしたぐらいで...だってさ。あーぁ。」
冷やかしてくる。
どうやら、言葉の言い回しが嫌味っぽく聞こえたらしい。
ジト―っと視線を注がれる。
「さすが売れっ子先生。俺も人生で一度は言ってみたいぜ。『また、トレンド入ってるわ』とかさ。」
「...別に、言えばいい。言うだけなら金はかからない。」
「言う?ここで?『いやー。
俺、トレンド1位入りすぎちゃってさ、
1位取ったくらいじゃ動じなくなったんだよねー。あはははー』って?」
「ああ。それで気が済むなら安上がりだろ?」
「俺がやったら、それ、逆に惨めになりそうなんだけど?」
「はは」
疲労困憊の俺は、こんなしょうもない掛け合いでも空笑いが漏れた。
「けど、俺、小説は無理だけどさ、アニメなら見れるから。秋アニメも奏汰の全部観るぞ!」
ばっちり、録画してやるわ。んで、エンドロールで流れる-原作:奏汰-の名前見て感動してやる!
「もちろん、今期のアニメ『俺バレ』もちゃんとリアタイしてるからなっ!」
ドヤ顔で親指を突き出してくる。
「それはどーも。てか、原作読んでないのにアニメ観て面白い?」
アニメって原作ありきなとことかあったりするけど....。
「ああ! 面白いぞ! 小説だと主人公が3つの名前を使い分けてて何が何だか訳わかんなくなって読むのやめたけど、アニメだったらキャラクターが動いてるし、喋ってるし、声も違うから俺の読解力でもわかる。だから、面白い!」
「そんなもんか。」
「あと、3人のヒロインが可愛い」
「そりゃ、可愛く仕上げたからな」
「ナイスだ。」
「何様目線だよ....」
「ふはははっ。」
「けど、本嫌いでもアニメは観れるんだな。」
「ああ。本嫌いってのはそーいうもんだぞ。」
「ふーん。」
活字が苦手でも、俺の作品だけは頑張って観てくれようとするのは昔から変わってないな。
別に無理にいいのに。
「秋アニメのやつのPVも再生回数稼いでやるからな!」
宣伝のために!
何故か、作者よりも意気込んでいる。
「や、別に、そんな頑張らなくても、多分、普通に100万再生は行くと思うけど。」
「ひゃ....?マジ?」
雄大がぽかんと口を開ける。
「ああ。あの作品、人気があるから。」
オタクの本気は、お前の想像の2つ上をいくぞ。
「まじかぁー。俺も奏汰の作品広めるためになにかしたかったんだけどなー。」
「お前は、いつも通り、馬鹿な事して叫んでおけばそれでいいよ。それが俺の息抜きだから。」
「そうか? そーいうものか?」
どうやら、俺の言葉に雄大は、しっくりきていないようだが、、、、、。
「ああ。そういうものだ。」と押し通した。
そんなくだらない朝の会話をして歩いていると、なんだかんだで、学校に着いた。
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