18話 ラノベ作家の愚痴
「分かりました。大丈夫ですよ。打ち合わせにサクラザキ先生連れてきてください。」
ラノベの売り上げは作家の文章表現ももちろんのことながら、絵師のキャラデザや挿絵も重要な客引き要素として存在する。絵師さんがよりレベルの高いイラストを完成できるよう、ここで恩を売っておくのも悪くない。
それに、サクラザキ先生の描く絵、俺は好きだ。特に少女のイラストは、透明感のある色彩とふわふわとした色彩で柔らかい印象を与えさせる。
『本当ですか?!ありがとうございます。彼女もきっと喜ぶと思います!』
「彼女と言うことは、サクラザキ先生は女性の方なんですね。」
『はい。そうなんです!
Twitterのフォロワー、15万人越えの人気絵師さんで、私は、先日お会いしたのですが、絵師さんをしているのが勿体ないくらいの美人さんですよ。先生の小説もすごく熱心に読まれているみたいで、以前、ご依頼メールをした際には、すごく興奮されている様子が文面から読み取れました』
へぇ。俺のファンなのか。
『サクラザキ先生は小説の挿絵依頼は初めて受けるらしく、『虹乃先生の小説を引き立たせるイラストが描ければ!』とかなり意気込んでいました。』
「そうなんですね。ありがたいです」
『大人気絵師サクラザキ先生×超人気作家虹乃彼方先生。こんな最強タッグはないと思います。このまま、自己最速重版とアニメ化を狙って行きましょう!』
「ははは。頑張ります」
まだ書籍化もしてないのに、アニメ化って、話が早いな。
『では、先生。そういう事ですので。今日の打ち合わせよろしくお願い致します』
「はい。じゃ、今日の17時に。」
『よろしくお願いします。』
「では、失礼します。」
そう言って、俺は電話を切った。
学校へ行く支度をして、エレベーターに乗り込む。1階に降りると、
一体全体どうやって入ってきたのか、マンションの住民しか入れないはずのエントランスで雄大が待っていた。
ひらひらと手を振ってくる。
「奏汰!おはー」
「ああ。ぉはよ」
俺の口から抑揚のない声が出る。
「奏汰、テンション低いなー。朝だぞ!元気出してこーぜ!!」
「雄大。朝からうるさい。」
俺は、ガンガンする寝不足の頭を抑えながら、特大音声ブーメランを飛ばしてくる雄大に殺気を放つ。
「うわー。奏太、その目の下のクマ。さては、昨日も不眠不休で執筆活動?」
毎度の事で慣れてしまったみたいだ。顔を引きつりつつ、苦笑された。
「ああ、そうだ。新作刊行が近いからな」
「うへー。有名作家も大変だなー。」
「ま、仕事だし。」
書くなら手は抜きたくない。
俺の作品に期待してる読者を裏切りたくはないからな。
「そりゃー、売れたら儲かるけどさ、『身を削り良い作品を生み出す』とか訳が分かんねー。
なんでそんな、頑張れんのかねー?」
雄大の言う通りだ。
「確かに、お金に釣られて小説家目指すのはやめた方がいい。割に合わない」
いつ当たるかも分からない博打に命を賭けるくらいなら、小説家含め、エンターテインメントに携わる事は考え直すべきだ。
人々に娯楽を提供する仕事は簡単な事じゃない。
「それに、楽して稼げる仕事は他にも山程あるからな。良い大学行って、福利厚生がしっかりしていて、そこそこ有名な会社で働くほうが、よっぽど未来が明るい。」
『社畜生活』と、ブラック会社を揶揄する言葉があるが、普通のサラリーマンで社畜生活をするほうが、大変かもしれないが、安定した給料も入るし、体を壊して倒れても代わりに仕事を引き受けてくれる社員がいるし、売れっ子ラノベ作家(俺の生活)より、よっぽと楽なのでは?と最近、思う。
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