16話 徹夜で仕事をしていたら担当編集から電話がきた

「んーーー。つぁーーーー!」

凝り固まった背中を伸ばし、ふと、パソコン画面から顔を上げるとカーテンから朝日が差し込んでいた。





「ああ。もう朝方か。」


「くぁぁっ。眠い。」




眠い。寝たい。疲れた。ベッドが恋しい。

徹夜の体が瀕死状態を訴えてくる。




「新シリーズが始動し始めるといつもこれだな。」

デュアルモニタに写し出された、編集部からの赤文字の修正コメント。それが点々と天の川のように列んでいた。



「小説家あるある。その1。

生活週間は非健康的。


小説家あるある。その2。

時間をかけた割にいい文章が仕上がらない。


小説家あるある。その3。

改稿修正作業が嫌いすぎて、永遠に終わらない.....。



....なんちゃって...。」


時折、口にする独り言は、疲労で頭が回っていないのか、脊髄反射級の下らないことばかりが浮かんでくる。




「自分の文章に修正を加えていくの、物語を紡ぐ作業と違って、割と国語の授業みたくなるから面倒なんだよな...。」




「はぁ。」

俺は眠い目を擦り、また、ため息をついた。




商業目的で書籍化する本は、web小説や二次創作の夢小説ほど自由に書けるわけでは無い。社会的常識から逸脱しないようにするために、編集社、出版社にて校正が入る。




作家が好き勝手書いた文章が読者に行き渡る前に、一度、書いた原稿は、編集者によって点検され、指摘が入るのだ。まぁ、指摘と言っても、『主人公を女ではなく男にしろ』とか、『お金持ち設定に変更しろ』とかキャラ設定や物語に関する意味不明な要求をしてくる訳では無い。




『一人称の使い方が間違っている』であったり『物語の前後、時系列に矛盾がある』『何度も同じ言い回しの言葉を使っていてくどく感じる』など、客観的な視点から、的確なアドバイスをくれるものだ。物語にのめり込んでウハウハで書いている作者にとって、第三者の意見というのは冷静になれて、とても有り難い事だ。


そう。校正作業は、有り難いのだが.....。





「この修正が結構、面倒臭いし時間かかる」

なんせ、自分が丹精込めて生み出してきた文章達である。それをダメ出しされ、今更切り刻んだり、見捨てるのは心が痛い。




「それでもなー。山本さんの言う通り、ここの文章無いほうが話のテンポが良くなる気がするんだよな.....。....やっぱ消すか....。」



さよなら。俺の文章達。

生まれてきてくれてありがとう。

俺は、心を鬼にして地の文3行をDeleteキーで葬った。


■■■■■

■■■■■



ちらっと時計を見る。

作業は中々進まないのに、時間は光の如く消えていく。

「もう7時半か....」




「今日の放課後は打ち合わせがあるから、帰り遅くなるし、もうちょい書き進めときたかったが、そろそろ身支度しないと遅刻するか。」




「あふぁ。取り敢えず、顔洗ってこよ」

重い腰をよいしょと持ち上げ、洗面所へ向かおうとしたら、電話の着信音が鳴った。




見ると、スマホの画面に『山本』さんの名前が写し出されていた。


ちなみに解説しておくと、山本さんは、茶のミディアムヘアがよく似合う、俺の担当編集者である。

背は少し小さい。


こんな朝早くから何事だ?


修正原稿提出の催促にしては、時期が早いな。

昨日、データ送ってもらったばっかだし。

それに、今日、打ち合わせで会う予定になっているんだ。

よほど急を要することでないと連絡しないだろう。


どうしよ、、、。

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