14話 来訪と体温計
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コンコンコン。
「起きてるか?」
俺が客室のドアをノックすると、小さく返事が返ってきた。
「けほっ。は、い。」
まだ熱っぽそうな声をしている。
「入っても平気か?」
「はい。」
その合図で俺がドアを開けた。
7月、梅雨が終わった途端、待ってましたと言わんばかりに、夏が到来し、日中は太陽がギラギラと輝いていたが、日が落ちると少し涼しくなる。エアコンは切れていて、加湿器だけが静かに動いていた。
布団から冷えピタと、少しの顔をのぞかせる櫻崎さんがいた。
見るからに、熱が上がっている気がする。
「体調は?」
俺がのぞき込むと、困ったように見つめてきた。
「……。」
いつもならクリっとしている瞳がゆるゆると淡く揺れている。
「なにも言わないということは、しんどいという意思表示でいいんだな?」
コクリ。
小さく頷いた。
普段、意地っ張りで自分の体調を隠し気味な彼女が素直に体調の悪さを吐露する様子からして、相当体がきついのだろうと察する。
昨日、休日診療している病院に行って『ただの風邪ですね。』と診断されて薬も処方してもらっている。それでも、自分の家で病人が寝込んでいるとなると不安はつきものなんだなと改めて実感した。
「部屋、さむくないか?」
そろそろ海開きのシーズンと言うのに、厚手の布団と毛布にくるまる彼女の身体を心配すると、「だい、じょうぶです。」と言う声が返ってきた。
「熱は?」
あれから測ったか?俺は、枕元に一緒に置いていた体温計に目をやった。
「少し前に1回測りました。」
彼女は体温計に視線走らせ、きまり悪そうにすぐ目を逸らした。
この体温計は前回測った体温が記憶されているやつ.....。ちらっと彼女を見た。
「履歴、見て良いか?」
「ダメと言っても見るのでしょう?」
「ふっ。まぁ、な。」
俺は、彼女の了承を得たと理解し、体温計に手を伸ばすと、
「むぅ。」と、小動物が不満げに喉を鳴らす音がした。
ピッと押し、表示された体温を見ると、数時間前リビングで測った時より高い数値が表示されていた。
「38.4℃か。しんどいな。」
「……。」
コクリと小さな首が動く。
「これからもう少し上がるかもしれない。今日はこのまま薬飲んで寝よう。」
風邪は寝て直せって言うだろ?
「うぅぅ。自分の身体が情けないです。こんな時に体調を崩すなんて。」
「大丈夫。大丈夫。納期がちょっと遅れたくらい、なんとかなるよ。それより、今は体を元に戻すのが最優先。薬のんで、2、3日ゆっくりすれば体も元通り、仕事もできるようになるから。今は焦らずゆっくり休もう。いいな?」
「はい。」
「元気になったらさ、俺たちタッグの初作品、もっともっと、伝説級にブチかましていこうぜ?」
「はい。」
素直に頷く。目元が潤んで見えるのはきっと熱に侵されているせいだろう。
「よしっ。んじゃ、落ち着いたところで、食欲、あるか? 薬飲む前に何か食べておいたほうがいい。」
何か食えそうか?
「はい。」
「よかった。少し待ってろ。」
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