10話 俺の家には猫がいる2

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「おかえりなさい」

執筆作業以外には無頓着で、無機質な生活を送っていた俺に、今日は、玄関で出迎えてくれた人がいた。

おでこに冷えピタが貼られ、くっきりとした瞳は昨夜の高熱に侵され、少しだけとろんと垂れ下がっていて覇気がない。マロン色の髪は、後ろで2つに緩く結われ、見慣れない黒縁のメガネをかけていた。


こいつが、最近拾った猫、、、、と言うか、、、、



人である。



名前は櫻崎さくらざき絃葉いとは


俺と同じ学校の生徒だ。

そして、偶然にも、クラスメイトであり、先日の席替えで、隣同士になった隣人でもある。


容姿端麗で成績優秀、性格良し、の三拍子が揃っている事もあり、男子は勿論、女子や下級生からも慕われ、先輩方からは可愛がられる才色兼備の美少女。


俺としてはサクラザキの愛称のほうが親しみを感じるが今はいい。

そんな櫻崎さんが、玄関で俺を出迎えてくれた。


「もう寝てなくて平気なのか?」


俺は、櫻崎さんの体調を気遣い、顔色をうかがう為に目を合わせた。


「はい。お陰様で、大分、熱も下がりましたし。」

こくんと頷く。


「そうか。」

大分、、と言うなら、まだ微熱くらいはあり本調子ではないのだろう。

今は無理しないのが一番だ。

「もう明日からバリバリ働きますね!」

ふんっむ!と意気込む姿に少しあどけなさを感じる。





「けど、昨日までひどい高熱にうなされていたんだ。無理せずに、もう少し寝ていたほうがいいんじゃないか?それに、夜にまた熱が上がってくるかもしれない。風邪というのはぶり返すとたちが悪い。無理は禁物だ」


「大丈夫ですよ」

もう、この通り、ピンピンしております!

と、細腕を曲げ、力こぶを作る仕草を主張してくる。

「もう元気です。」

せっかく心配したのに、元気だと言って跳ね返す。



はぁ。いつもいつも、君はどうして、そんなに無理をしようとするのだろうか。元気じゃない時くらい誰かに頼ればいいのに....。



「昨日より体が軽いですし。昔から身体は丈夫な方なので、大したことないです」



見え見えの空元気。

バレていないと思っているのだろうか?


気丈に振る舞う彼女を見て、さすがに苦笑が漏れる。

これは、病人オーラを隠しきれていない彼女に一つ、説教だな。


「?」

彼女はというと、俺が苦笑している理由が分からずきょとんと小首をかしげていた。


「それは、昨日、高熱でうなされてた時と比べて元気になったってこと...だろ?」

俺が言うと、

「そ、それは、、、で、でも、本当に、元気に、、、」

図星だったのかモゴモゴと押し黙る。




「本当に、いつも通り、元気になったのか?」

俺は彼女の本心を暴くために彼女の瞳をガン見する。

「ぅ?、えーっと、は、い、、、、。」

目をそらされた。

憶測が確信へ変わる。

元気になったって、嘘だな。



まだ芯に元気になったとは言い難いだろ?

少し、身体が怠いんじゃないのか?

俺の問いに彼女の目だけが正直に泳ぐ。


段々と最初の威勢の良さがなくなり、一回り小さくなった気がする。




「はぁ。ったく。健康状態の比較対象を体調不良の時に持ってくるな。元気な時と比べろ」

コツンと彼女の頭を軽く小突く。



「あぅぅ。」

しょぼんと彼女の猫耳が垂れた。

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