9話 俺の家には猫がいる
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学校終わりの疲弊した俺の体が、ふわっとした甘い声に包み込まれ、たちまち癒されていくのが分かる。
「ただいま。」
家に人が居る。家に帰ったら出迎えてくれ、声をかけてもらえる。この感じが気恥ずかしくて、つい目をそらしたくなる。そんな俺の心情がバレたのか、彼女はふふっと楽しそうに笑っている。
それもまた恥ずかしさを助長させてくる。
くそっ。
俺は、恥ずかしさを誤魔化すようにいつもより丁寧に靴を脱ぎ、下駄箱へしまった。
「思ったより早かったですね。てっきり、遊んで帰ってくるのかと....。」
「遊ぶわけない。君がいるのに。」
彼女に顔色を窺われないように、出来るだけ顔を反らしていたのに、クイッと小首をかしげ、俺の隙間へ入ってくる。
「けれど、私、早く帰ってきてとも言っていませんよ?」
「ここは俺の家だ。別に学校が終われば直帰してもいいだろう?」
「今日は午前中で授業が終わったのですから遊んで帰ればいいのに....」
「あいにく、君みたいに友達が多くないからね。」
馬鹿だな俺。
彼女を心配して早く帰ってきたのに、何故それを素直に言えない…。
変に強がって格好つける自分に腹が立つ。
「ふふふ。そーでした。西野君は友達が少ないんでしたね。」
「…なんだ、その勝ち誇った顔」
「いーえ、そんな顔なんてしていませんよ」
彼女があざと可愛く口元に人差し指を添え微笑む。
「はぁ。」
「むっ。溜息とは失礼な人ですね。」
ブツブツと不満を漏らしていたが、やはり、自分のいない学校生活が気になるみたいだ。
「ところで、今日、学校、どうでしたか?」
「別に....。普通、だな」
いつも通り、雄大がうるさかった。
「ふふふ。岡野君、いつも元気いっぱいですからね。」
日頃の雄大のわんぱくぶりを想像したのか、楽しそうに笑っている。
「あー、まぁ、あいつはガキだからな。どーしようもない。」
女子達がアイツを見てキャーキャー言ってる理由が分からん。
「ふふっ。でも、西野君も岡野君と一緒に居るとき、楽しそうにされてますよ?」
「楽しそう?俺が?」
そんな事を言われると思っていなかったので驚く。
「はい。目元が少し緩むというか、なんだか雰囲気が和らいでいる感じです。」
「ないない。あいつと一緒に居ても疲れるだけだから。」
「ふふ。そうでしょうか?」
俺の拒絶反応に、彼女はおもしろそうに首をかしげていた。
顔が傾き前髪が横へ流れる。チラリと隠れていた額が見えた。
そんな彼女の仕草を見て思い出した。
俺は、気にかけるべき大切なことを忘れていた。
「それより、起きていても平気なのか?」
彼女の体調を窺った。
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