3話 櫻崎さんは今日も風邪でお休みらしい
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「そいや、風邪って言えば、
『風邪』と言うキーワードで思い出したかのように雄大が口を開いた。
雄大が斜め後ろの空席に視線を流す。
「金曜から櫻崎さん休んでるじゃん?土日で回復できなかったやつかな? 大丈夫かな?夏風邪は長引くって言うからなー。」
心配だなー。と言いながらも呑気に伸びをしている雄大。
気づけば心の声が漏れていた。
「櫻崎?」
ピンとこない名前に聞き返すと、雄大の伸びの体勢がピタリと止まり、『こいつ、人間じゃないな...』と蔑んだ顔をして振り向いてきた。そして、何も言わず俺の肩をポンと叩いた。
「...。奏汰、いくら人の顔と名前覚えるの下手でもさ、さすがに同じクラスメイトの名前くらいフルネームで言えるようになろうぜ?」
「櫻崎さんは、サクラザキさんだろ。
ああ、サクラザキさんの事か。
ようやくピンときた。
「はぁ。昔から、興味ある事以外無頓着なのは知ってるけど、今のは、さすがに驚いたわ」
雄大がややオーバーな溜息をつき、頭を抱えている。大げさすぎだろ。
「席替えしてまだ、数週間しか経ってないんだ。」
「いやいやいや、それでも高校2年のクラス替えから4カ月も経ってるから。4ヵ月もたてばフルネームは無理だとしても名字は全員言えるだろ?」
呆れた顔で頭を抱えてくる。
「はぁー。奏汰。そろそろ隣の席の奴しか名前覚えませんみたいなノリやめろよなー。」
うるさいな。
雄大は意外と、初対面の人でも顔と名前を覚えるのが早いからそういう分では尊敬する。が、見習いたい訳じゃない。
「でも、実際、隣の奴の名前さえ覚えておけば生活に支障はない。」
クラスメイトと会話をすることなんて、授業中の話し合いくらいだ。
「けど、今、隣の人の名前も危うかったよな?」
「....」
いけない。目をそらしてしまった。
無言を貫くと、大げさすぎる溜息をつかれた。
「はぁ。しっかし、さすがにお嬢様の存在は忘れないっしょ。」
彼女、校内じゃ有名人じゃん。
「別に....櫻崎さんの存在を忘れていたんじゃない。すぐに反応出来なかっただけだ。」
一瞬、雄大になら先日の一件を話してもいいのか?と思ったが、ここは教室。誰が聞き耳を立てているか分からないから辞めておく。
けど、何も知らない雄大には理解しがたい問題だった。
「それ、何が違うんだよ。」
じとーっと陰湿な視線が痛い。
「....別にどうだっていい。クラスの奴の名前なんて覚えていなくても。人間か動物、男か女かその他の区別ができとけば、問題ない。」
自分で言っといて、ひどい言い訳だ。
けど、仕方ないだろう。覚えられないものは覚えられないのだから。
俺は自分に言い訳をするように言い聞かせた。
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