第7話

「疲れた……」


盛り塩効果か知らないが今日は大忙しだった。着替えもしないでベッドに倒れこみ、このまま眠ってしまいたい……と襲ってきた睡魔と戦う。

こんなとき癒してくれる彼女でもいれば……可愛いペットでもいい……。しかしここはペット禁止だし、彼女はおろか女友達すらいない。いるのはエネルギー吸引機の幽霊だけだ。およびでない。


「ズゾゾゾ」

おいおい……『死者に鞭打つ』は聞いたことあるけど『死者に鞭打たれる』は聞いたことないぞ……。こんな仕事終わりでくたくたの体からまだ搾り取る気か、血も涙もないな。幽霊だからか?

しかし覚悟していた不快感は来なかった。それどころか、少し体が軽くなった気さえする。


「ん?」


体を起こすとやはり先ほどより楽になっている。幽霊の方を見ると、苦虫を噛み潰したような顔をしていた。いつもはだらしない幸福にあふれた顔をしているのに、これほど幽霊らしい恨めし気な顔をするとは何事か。


「ひょっとして……俺の疲労を吸ったのか?」

「ズズズズ」

「痛たたた!」

結局生命力も吸うのかよ……。しかし、生命力というものは少しずつではあるが回復が可能だ。それに引き換え、大人の疲労というのはちょっとやそっとでは回復しない。その上、回復する前に次の疲労が溜まっていくのだ。

それならば……



「俺の一生に付き合う気はないか。もし疲労を吸ってくれるなら、同じだけ生命力を吸っていい。ただ、断るならお前がどれだけ俺の生命力を吸おうと全力で祓ってやる」

この幽霊、よく見ると意外と表情豊かなようで一瞬面食らった顔をして、ニヤッとふてぶてしく笑った。


「ズズズ!ズゾゾゾゾ!」

「ツ⁈⁈いっっった⁈⁈」

肯定か、肯定なのか。わかったよ……でもな……


「おい!吸い過ぎだ!吐け!おら、口開けてペってしろ!!」

俺の手はスカッと通り過ぎて壁にぶつかった。幽霊は例のごとく「至高の幸せです」という顔をしていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

人吸い 藤間伊織 @idks

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

同じコレクションの次の小説

かさぶた

★0 ホラー 完結済 1話