第6話

次の日も休み……といけばよかったのだがそうもいかない。今日は仕事に行く日だ。

こいつを連れていくのか……と横を見れば

「ズズッ」

口をもごもごさせ、幸せそうな幽霊の顔があった。

「吐けって」

抗議の言葉もまったく意味がない。


しかし、俺には秘策があった。会社に着くや否やカバンから小皿を二枚取り出し、それをさっと扉の両脇にセットするとさらにカバンから塩を取り出した。家の小瓶では埒が明かないので行きがけに買ってきた1キロの袋のやつだ。そして皿に盛る。

簡易結界の完成、というわけだ。効果は不明だが。


「何をしているのかね?」

部長に声をかけられた。そりゃ、部下が急に塩を盛り始めたら当然か。

「いえ、これをやると客寄せになると聞いたもので」

「それ、飲食店の話じゃなかったか?普通は魔よけだったような……」

「そうでしたっけ」

とりあえず、とぼけておく。部長は「まあいいケド」と認めてくれた。


そしてその結界?に入る緊張の瞬間。数歩進んで振り返ると幽霊は同じ場所に立ったままだった。どうやら本当に効いたらしい。

俺は小さくガッツポーズをした。一方幽霊はあからさまに嫌な顔をしていた。幽霊もあんな顔もするんだなと思った。

紐は残念ながらつながったままだったので今のうちに切ってみようか、と机の上のはさみが目について迷ったがやめた。あの顔は「吸うぞ」という顔に違いない。


とりあえず、仕事中にあいつから数メートルでも離れられたのは大きい。刺激さえしなければ無駄に吸われることもないはずだ。

俺は真面目な一社員として働くことにした。

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