第5話

結果から言うと、ダメだった。

何を試しても失敗してしまうのだ。


俺自身は紐に触れられることが判明したので、まずは無理やり吐き出させてやろうとした。しかし力の限り引っ張っても、釣り上げられた魚よろしくくっついたままだった。

そもそも幽霊というものは大抵怪力の持ち主だったりする。人の力でどうこうできるという考えが間違いだったかもしれない。

というわけで次に文明の利器、はさみを持ち出した。いっそ紐を切ってやろうというわけだ。今まで吸われたものは返って来ないが、すべて吸い尽くされるよりはマシだろう。

ぐっと力を入れてみると、見た目より硬いらしい。少しもたついている間に意図を読まれてしまったらしく幽霊は実に遠慮のない抵抗をしてきた。


「ズゾ、ズズゾゾゾ。ズゾゾゾ!」

「ちょ、ちょっと待て!蕎麦じゃねぇんだぞ!吸いすぎ……って、い゛っっ⁈⁈」


なんとしても切られまいと紐を一遍に吸い込んだのだ。吸われた量とダメージは比例するらしく、その瞬間脳みそが揺さぶられたような痛みが襲った。一瞬だったがショック死してもおかしくなかったのでは⁈と思うほどだ。


「ぐっ……」

なんとか持ち直し、体を起こすとなんと幽霊が俺の体に半身を突っ込んでいた。

「うわあ⁈」

外に出ている紐を吸い込むと同時に、俺の体内に入って切る部分をなくしたのか……。しかしこれではまるでケンタウロスだ。


「……わかった、もう切らないから出てくれないか」

正直気持ち悪い。すると幽霊が前に移動してきた。俺の腹から人間の下半身が飛び出すという更にグロテスクなことになった。


しばらく説得をするとしぶしぶ出てきたが、前より(物理的に)距離が縮まった。その後昼飯を作ろうと包丁を持ち出しただけで警戒して俺の腹に突っ込んできた。前より悪化した気がする。



しかし、どうも幽霊はこちらの言葉を理解しているらしい。では説得をば……と幽霊と向き合うように座った。


「あの、俺に憑くのやめてもらえませんかね……」

沈黙。

「他にも人はいるし……俺よりいいやつ見つけられると思うんですけど」

最低かもしれないが自分の身を守るためには致し方あるまい。

しかしどんな説得の言葉をかけようとも幽霊は反応しなかった。


「どうしても俺じゃなきゃダメなんですか?」

「ズズ」

「え……」

今なんで吸われた?まさか「イエス」ということか?もう痛覚がマヒしてしまったのかちょっと吸われたくらいでは大した痛みも感じなくなっていた。

「なんで……。なんかよく聞く相性とか波長とかそういうことですか?」

動きはなし。

「まさかですけど……また別の人に憑くのが大変で面倒だからとか……?」

「ズゾゾゾ」

「うっ……」

意思表示をするためとはいえ、こちらにダメージがあることをわかっていてやっているんだよな?


これ……離れる気配がない……。

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