蝶迷宮

「新屋!そっち行ったよ!」




「おう!」




赤波と春木はある物を追い掛けていた。




「この先に回り込むから、挟み撃ちにするぞ!」




春木は追い掛けていたソレを捕まえた。




「待ちなさいよ!田中さんがアナタを待っているんだから、大人しくしなさいよ!」




犬のペット。それが今回の仕事の依頼だった。


依頼報酬は春木がターゲット捕まえた事である程度貰える。


フッと肩の力を抜いて、落ち着いた犬を撫でる。




「新屋何やっているのよ?先回りで私の方が先に捕まえるって、もしかして休憩しているの?」




サボっている。そう思った春木は犬を抱き抱え、赤波が来るはずの道を進む。


角を曲がれば自分と別れた道に出る、そうなれば休憩をしている赤波が居るはず。




「新屋、アンタ仕事サボってないで働きなさいよ」


疲れた表情の赤波が膝をついて座っている。




「新屋?」










「ここは?あれ?さっきまで追いかけていた住宅街じゃない?」


赤波は見慣れない風景の街並みに驚いた。自分が何故?




「おーい!春木どこ行った!出て来い~」




ここはどこだ?歩いていると、開けた空き地が目に留まった。


そこには蝶が飛んでいる。


不思議と足が進む、自分の意思とは関係なく、引き寄せられる。


朧気になる。だが、情報だけは確実に脳に刻まれる。




「なんだこの感じ・・・」






———完全勝利——失敗




戻って来た。それは即ち、あの場所で敵に攻撃され時間が経過していた。その事実。




「ここは!ってことは敵が現れた?でも居なかったぞ!」


赤波はまた道を進んでいく。そしてまた空き地に着いたが、意識が薄れた時に頭の中に直接言われる。




———完全勝利——失敗




「またか!でも何処に?目視はしていない。不可視化?そんな個性が存在するのか?」




敵の存在が分からない。だが進むしか道が無い。


違う道を歩いてみた。何処までも続く道を歩いていると、最後に辿り着くのはあの空き地。


そして、宣言される。




———完全勝利——失敗




幾度も繰り返す、だが空き地に着くと、宣言され戻される。


分からなくなっている、自分が何処でどんな敵に遭遇しているのか。




「クソ!敵が見えないんじゃ攻略の方法も分からない!」




赤波の個性は特別強い能力と言える物ではない。そこに常人並みの運動能力しか無いのは、赤波がC級に上がれない要因となっている。


個性が開花した人は通常、筋力のトレーニングなどをすると、筋肉の繊維が爆発的に増え、


常人には到達する事の出来ない、超人的な肉体を手に入れられる。




そこで、自分には個性があると気が付く者も多いが、個性がなんなのか?外見の変化が見られないと個性を見つけ出す事は難しい。




そして赤波新屋という男は、自分の弱点を全て把握した上で、戦いに挑み、完全勝利を掴み取るまで挑み続ける。


だが、今の状況は非常に厳しい。


相手を認識しなければ、対応が出来ず、ただ無意味にタイムリープを繰り返すだけなのだから。






———完全勝利——失敗




明らかに空き地が怪しいのは分かるが、ヒントに繋がるモノがない。


だが、帰るには敵を倒すそれしかない。




今度は最短ルートで走って空き地まで来た。


空き地の隅々まで、敵の手がかりを探すが見つからない。


手を土で汚しながら這いつくばってでも探したが、何も無かった。




———完全勝利——失敗




また走って向かう。


探すが何もない、残り時間が僅かになった時、不意に蝶を掴んだ。


すると、景色が戻った。




前からは歩いて来る、春木。




「新屋、アンタ仕事サボってないで働いてよ」




帰って来た?って事はこの蝶が突然変異であんな事をしていたのか?




「新屋?」


不思議そうな顔を見せる。




「コイツが?」


手にした蝶は見た事も無い様な綺麗な色をしている。


レオナルド・ダ・ヴィンチの<サルバトール・ムンディ>


の様に目を離す事が出来ず、時の流れという物を拒絶したくなる。




赤波が見つめていると、その蝶は灰となって消えた。




その日、事務所に戻った赤波は大鐘に、その蝶の事を話すが。




「あぁ、でもそれって本部も確認できていないんだよね?」




「たぶん」




「じゃあ報酬は難しいと思うよ?仮に報酬が支払われても、君に支払う金額が安いからだよね」




「ですよねぇ。」




「まぁ良いじゃん!もしかしたら、その蝶が市民に危害を加えたかもしれないんでしょ?


なら先に倒したのには意味があるでしょ?」




「とほほ」


肩を落とす赤波だが、窓の外を蝶が飛んでいるのが見えた。




「あっ大鐘さん蝶々だよ!私に捕まえて来てよ!」




「離せよ!俺は虫に興味なんだよ!今は競馬で忙しいんだ!」




赤波は二人が騒いでいるのを、横目に少し黄昏た。


あの蝶は何を伝えたかったのか?そんな事を考えていた。




「やったぁぁぁ!当たったぞ!」




「じゃあ今日のご飯は大鐘さんの奢りで、回らないお寿司に行こうよ!」




「おう!遠慮せず頼めよ!」




「わーい!新屋!お寿司行くよ!」




「おう!今行く!」






自由に空を舞う蝶


その姿はいつも美しい


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三分間で世界を救え!「えっ!ヒーローライセンスD級の僕がですか!」 就職したくないからヒーローになった男は世界唯一のタイムリープ持ち。 負け知らずと言われた、世界一のヒーローは世界で一番負け続けていた ネムネム @NEMUNEMU999

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