世界一のエンタテインメントシティー

世界一のエンタテイメントシティー「シムラクルム」


世界中から多くの人が来ている。


常に人が外を歩きまわり、笑い声、泣き声、怒声。あらゆる角度から降り注いでくる、楽しみたい。そういった思いからか、この街は眠る事を知らない。




シムラクルムは周囲を高さ20メートル近くもある、壁に囲まれている。


街に入る為のゲートは東西に一つずつあり、ゲートはシムラクルムが独自に組織している警備隊によって厳重に守られている。




持ち物の持ち込みは基本的には禁止され、ゲート前にある建物でカードを渡される。


そのカードはシムラクルムでしか使用が出来ず、外の世界ではゴミと化す。


カードに任意の金額を入金し、中で使う。


単純なカードである。もしも入金した金を全て使い切ってしまった時は、ルールにより


1時間以内にゲートの外に出ないといけない。


これは、お願い事ではない。


従わない者、ルールを破る者には死よりも苦しい罰が待っていると言われている。








——とある遊技場




「なんだよ!もっと遊ばせろよ!俺はインサニア王国の王子だぞ」




「お客様、他のお客様のご迷惑になります。お静かに願います。」




「なんだお前、気安く俺様に話し掛けるな愚民が!お前じゃ話にならん、責任者を出せ!」




「いいえ、そうもいきません。お客様一人のために責任者を出していては、他のお客様に楽しんで頂けませんので」




「なんだ、その口の聞き方は?俺様は王子だぞ!貴様一人簡単に消すことも出来るんだぞ」




「そう言われましても、私達もルールあります」




「この街は楽しませるのが目的なんだろ!なら楽しませろ!」




「お客様はゲート前の説明を覚えていますか?」




「知るか!お前ら愚民の言葉など覚えていられるか!」




「1時間以内にゲートの外に出て頂く、と私達は説明させて頂いていると思いますが、既に1時間は過ぎてしまいました」




「だから何だって言うんだよ」




「ルールに則り、お客様は今からゲストではなく「演者」キャストになって頂きます。つきましては準備ができ次第、説明に移らせて頂きます」




王子は背後から大男に羽交い締めにされ気を落とされた。


周囲で見ていた「客」ゲストは、何かの見世物だと思い、煽る様に毒突く言葉を飛ばし続けていた。




———狂気


「立場が人を作る」初めにこの真実に気が付いた者は、まさに天才である。






「レディースアンドジェントルマン!今宵皆様にお届けしますのは、インサニア王国のハメルン王子による世紀の一戦になります。対しますは南半球で発見され、その痕跡を辿ると町一つが壊滅させられていました。被害にあった人の数は暫定ではありますが、3万人を超えると言われ、絶滅に追い込まれた生物は5千種以上。皆様も一度は聞いた事があるのではないでしょうか、S級認定された、この怪物、大蛇・ヨルムンガンドにございます」




歓喜の声、狂気に満ちた声援は王子ハメルンに向けられた物ではなく、ただ面白い物が見られる。それに興奮した声だった。


余りにも大きな歓声は、建物を振動させる程だった。




「おい、なんだこれは!」


突然アナウンスが聞えたと思いきや、ハメルンの入っていた箱が上に吊り上げられた。


目に入って来た光景は、見た事も無い闘技場の様な場所だった。


周囲の壁は高く、何の為にここまで高くしているのか、ハメルンには理解が出来なかった。




「ではゲストの皆さま、宜しいですか?本日は4択にさせて頂きました。」


Q1・5秒生存————37%


Q2・10秒生存———40%


Q3・15秒生存———17%


Q4・20秒生存——— 6%




中央に吊るされた巨大モニター、そこに映し出されたのは生存時間だった。


当然、ハメルンが賭けの対象だった。




「おい!俺様にこんな事をして許さんぞ、貴様ら」




客席に向かって叫んだ。だがゲストである彼らの表情は分からなかった。いや、表情が見えないのだ。ゲストは皆が皆、仮面を付けている。


異様な光景が広がっていた。




そんな中何処からか分からないが、声が聞えて来た。




「黙れ、虫けらが!」




ハメルンは聞こえた。この降り注ぐ数多の声の中から。




「誰だ今、俺様に黙れと言った奴は!」




闘技場内から狂気的な歓喜の声が一瞬消えた。


ハメルンは勝ち誇り、少し口元が緩んだ。が、また声が聞えた。




「死ね」という単純で感情のこもっていない言葉。


ソレは隣に感染、次は前後に感染、しまいには場内全体が感染していた。


集合精神の様に個体の個性が失われ、場内全体で一つの「個」になった。


複数の脳が横一線に電気信号を起こした。つまり、並列化した事で個の獲得は出来たが、虚ろな存在には変わりない。






「皆さま参加ありがとうございました。ではショーをお楽しみください。」




アナウンスが流れると、足元の床全体が動いて下がり始めた。


見上げると、元居た場所の明かりが小さく見えた。


次の瞬間、大きな衝撃が下から突き上げて来た。


衝撃で姿勢を崩したが、バランスを持ち直した。


すると、明かりが次々と点き始め、その場所がなんの為にあるのか。瞬時に理解した。




強大な空間に大きな塊が見える。それは常に動いており、大きな塊としての形が変化していく、強化ガラス越しに見える光景。




ハメルンは膝をガクガクとさせながら笑っている。いや泣いている。


大きなソレ。「ヨルムンガンド」と目が合った。


自分の背丈を越える大きな瞳は自分をなにとして認識したのか、それは、誰にも分からないが、ゲストの期待は何秒生き残るか?それだけだ。






————命の価値




そんなモノは存在しない。


いや、ハメルンの命には価値があった。


何故ならば、ゲストを楽しませる。キャストの役割を果たしたから。




強化ガラスが床に落ちて、一瞬の出来事だった。


思考を働かせる。誰かに懺悔をする。恨みの感情が込み上げる。


そんな余地もなく、足首から下を残してハメルンはエサになった。




生存時間・1秒




これが答えだった。




ゲストの多くが笑い、賞賛を送る事をしなかった。


当然の事だ。彼が死のうが、生き様がゲストには関係がない。


これは「エンタテインメント」


金など興味がない。息をしているだけで、巨万の富を手にしているゲストにとって、ここで起きる事を外野、第三者的立ち位置で見る事が、心に空いた穴を埋める最後のピースだと思っているからだ。








——————モニタールーム




「ねぇ?ボス。そろそろもっと面白い奴と戦っているのが見たいね」


一人の少女が話している。服は血まみれになり、片手には誰かの髪を掴んで持っている。




「あぁ、そうだな」


ヤル気の無い返事をする男が居た。




「ねぇ!ヒーローが戦ってるのが見たいよ」




「ヒーローか?」




「ヒーローが良い!次はヒーローが良い」


少女は血まみれの服を男の腕に押し当てた。




「分かったから、その服着替えろ!」




「え?ボス。コイツどうする?」


少女は掴んでいる髪を見せた。




「あぁ、もう良いよ。それにそいつにはもう用は無いしな」




「じゃあこれ貰うね!」


少女はソレを強く抱きしめた。




「お前、それで何個目だよ?」




「え?覚えてないや?でも良いの!」




「あっそう」




「君は僕のコレクションだよ」


少女は首から上だけになった男の額にキスをした。








世界一のエンタテイメントシティー「シムラクルム」


世界中から多くの人が来ている。


それが彼ら「セルウス」の住処。


人間の欲を満たす為に作れ、その街に一歩でも足を踏み入らたら、国の法など意味がない。


その都市には独自のルールがあり、そのルールを破る者には死よりも苦しい罰が待っていると言われている。


大国の大統領も有名企業の社長も、その街ではゲストであり、キャストでもある。

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