第10話 さよなら、じいちゃん
「おまたせ、はーちゃん、なーちゃん」
私は、隅っこで固まっている二人に声をかけた
「お帰り!」
「おかえりなさい」
ばっと二人が飛びついてくる。
「どういうこと!!」
私はびっくりしたと同時に力が抜けて、へなへなと座り込んでしまう。はーちゃんとなーちゃんが左右から抱きついてきた。
「おねえちゃんに、声が届かなくなったあと、はーちゃんが目を覚ました」
「それで、ちょっとしたら、なんか体にスーって引っ張られる感じがして」
「元に戻ってた」
わ、私の苦労……。
「世界の理じゃな。転生者がいなくなった以上、世界は元に戻ろうとする。転生者自体が本来は異物だからな。世界を変えてしまうほどに」
「じいちゃん、知ってたの?」
涙目で睨みつける。
「賭け、だったさ。全部伝説で、保証なんてどこにもない。それでもやってみるしか道がなかった」
じいちゃんは悔しそうに言う。
「おじいちゃん!!」
二人がじいちゃんの方に今度は抱きつきに行く。
「おじいちゃん死んじゃったの?」
はーちゃんが聞く。
「そうだよ。もうお前達とはお別れじゃ」
「でも今ここにいる」
なーちゃんが唇をとがらせた。
「これは夢だよ。でも、夢でもちゃんとお別れができてわしは嬉しいぞ」
「いっちゃ、やだっ」
「いったらダメ」
二人はじいちゃんにすがりついて泣き出してしまう。
「おじいちゃんを困らせちゃダメだよ。天国に行けなくなっちゃう」
「それはやだ」
「地獄はダメ」
二人をなだめて、じいちゃんから引き剥がす。
「二人を頼んだぞ、加奈」
「わかった」
「葉月もなつきも、加奈おねえちゃんの言うことよく聞くんだぞ」
「はいっ」
「うん」
二人とも、泣きながら返事をしていた。私は二人の手を片方ずつ、両手でぎゅっと握りしめる。
「二人が寝るまでそばにいるよ。久しぶりに、じいちゃんと寝よう」
「おじいちゃん!」
二人は素直に、布団に入った。なーちゃんの側に添い寝する。
「二人ともよく頑張ったな。じいちゃん自慢の孫だ」
「へへ」
「ありがとう」
じいちゃんの節くれだった手が二人の頭をなでた。
「ふたりともおやすみ」
「おやすみなさい」
「おやすみ」
しばらく待つと、二人とも寝息を立て始めた。じいちゃんは起こさないように少し待つ。私は、三人の別れを邪魔しないように、涙を隠しながら眺めていた。
「待たせてすまんの」
「明日、お葬式が終わったらもう会えないの?」
「運がよければ地獄でまた会えるわ」
「なんで地獄なの!」
「冗談じゃよ。ばーさんに会いに行かねばならんからの」
「そういえばどうしてばあちゃんは力が使えたの?」
「使えんよ。言霊は、信じるものにとっては力になる、それだけのことじゃ」
「そっかあ、じゃあアラームの音変えなくちゃなぁ」
余計なことを知ってしまった……。
「変えなくてもいいさ。ばーさんなら、どこにいてもお前のこととを連れ戻しに来るからよ。これからはわしも一緒にな」
じいちゃんが笑った。そっか。そうだよね。
「わかった。ありがとう」
「そろそろお別れかの。お前も起きんと、寝ずの番がはたせんぞ」
「あー。もう寝てんじゃん」
「気づかれなければカウント外さ
じいちゃんが笑った。
「それじゃまたな」
じいちゃんはあっさり消える。どこに行ったんだか……。私も起きなくちゃ……。
すーっと眠気が来る。
「はっ」
うっかり寝てしまっていた。じいちゃんの棺によだれがついていないか慌てて確認する。大丈夫そうだった。
棺の小窓を開けた。心なしか、じいちゃんは満足そうに笑っているように見えた。はーちゃんとなーちゃんの確認にも行きたいが、ちょっと無理だろう。大丈夫なことを信じて、またじいちゃんに向き合う。
「ありがと、じいちゃん」
ぱたん。
棺の小窓を閉じた。
異世界転生者を夢に見るお仕事 かれん工房 @karenkobo
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます